「バカヤロおおおお!!」


ざぱあああん!!

と波の音は聞こえないが(日本ではお決まりなのだが?)人気の無い塔のてっぺんから遥か遠くの山に向かって叫ぶ私。イエイ!青春してるぜネイチャン!と端から見たら思うかもしれない。(でも多分この紳士の国では「まああの子何してるのはしたないわオホホ」とか金髪ギャルズに言われるだろうな)でも心では青春なんて甘酸っぱいを通り越して塩辛い程苦しかった。
好きな人がいてずっとずっと彼が好きでいつも遠くから見ているだけだった。とってもかっこよかった。朝食の席でクロワッサンを食べている姿も、退屈な魔法史で居眠りをしている横顔も、休み時間に友達と騒いでいる笑顔も、クディッチの応援に燃える顔も、全部全部かっこよかった。こんな見ず知らずの私が廊下で羽ペンを落とした時、どこからともなく現れてささっと羽ペンを拾い「大丈夫かい?落としたよセニョリータ」なんて肩を優しく叩いて渡してくれた。(彼がスペイン出身かなんてこの際どうでもいい!)
だからそのお礼がしたくて多分私のことなんて覚えてくれてなんかいないと思うけど、夕食の後大広間の入口で彼を待っていた。そして出てきた彼を呼び止めて「さっきはありがとう。是非お友達になってくださる?」と頭の中で何度も繰り返したイメトレを実践すべく「さっ」まで言ったところで彼は誰かに名前を呼ばれた。それは甘い声で彼はその声の主から後ろから抱きしめられた。「やんダーリン何してるの?」と言ったのはまさしく超美人な金髪ギャル。その青い瞳が私に向けられするどく刺さる。彼も彼で「ああゴメンよハニー。何でもないから」なんて言って金髪ギャルの腰に腕を回す。そこで私は一瞬にして、あーこういうことか、と理解する。依然金髪ギャルはチクチクと刺さる視線を私に向けてくる。そして一言。「ダーリンこの子何?どーいう関係?」へ?私ですか?あなたの足元にも及ばないような私のことですか?「ち、違うよハニー!何の関係も無いよ」………。もう言葉というか思考を奪われた。何だか一気に魅力のカケラもなくなったただの金髪チャラ男にしか見えなくなった。「本当に?ダーリンこの子に気があるんじゃないの?」もうこの時点で私はさっさと寮に帰りたくなった。もう勝手にしてください。「まさか!こんな…ペチャパイ!」………。




「どうせバストもウエストも大して変わりませんよおおおお!!」



まあ確かに金髪ギャルのおっぱいは大きかったさ。動く度にゆさゆさ揺れていたさ。だが何だこいつは!私は何でこんな奴に惚れたんだ!一生の恥だ!私のあんたを思った日々を返せ!青春を返せ!そうこう思っているうちに「いやんダーリン愛してる!」「僕もだよハニーあはは」「うふふ」「あはは」なんて(頭の方まで)バカップルは去って行った。だがそんなの真っ白に燃え尽きた私には見えてさえいなかった。次に気がついたときには「なあなああいつ見てみろよ」「ダメだよ指なんか指しちゃぷぷぷ」とどこからか私を指差して笑う野郎の声がしてきてそいつらを「キエッ!」と睨んで走ってここに来た。そして今に至る。



「男なんてミジンコよおおおお!!」



そう、あんな男に惚れた私が馬鹿だったの。何が「落としたよセニョリータ」だお前は何人だ人参か!よくよく思い出してみれば居眠りしている顔だって半目だったかもしれないし涎が垂れていた気がする。彼女の腰に手を回すとかもいちいち行為がチャラい。うん、本当こうなってよかった!よかったんだ!ああ清々した!…うん。

ああ、やばい泣きそう。
清々したよ。あんなやつ好きにならなきゃよかった本当に。私の時間を返せ。いつもあんたを探していて、いつも考えていて、そんな時間が、幸せで。やっぱりその笑顔は最高にかっこいい。




「…ぐず、………ん?」



ひらひらと私の前を白い何かが落ちて行った。何だろう?白くて小さくて光っていた気がする。私は少し見を乗り出して手摺りから下を覗きこんだ。んー見えない。


「おい!」



え?…って、



「ぎいややや!!落ちるううう!!」

「馬鹿野郎!」

いきなり後ろから声をかけられたもんだからバランスを崩した私の体は大きく手摺りからはみ出してよもや一環の終わりかと思った。がその瞬間強い力に引き戻された。ああ、地面!地面がある!どなたか存じませんがとりあえずお礼を


「馬鹿野郎!糞野郎!この人間のクズがあ!」


何だこの人!?初対面でいきなりこんな失礼で下品なことを言われたのは当たり前だけど初めてでとりあえず言葉が出なかった。


「お前、失恋したぐらいで死ぬとか…本当最低野郎だ死ね!」

「ええ?」


ちょっと待て。本当に色々と言いたいことがある。ただでさえ無い頭でよく考えよういや考えなくても大体わかることはとりあえずこの人は私がこっから身を投げて…つまり自殺しようとしていたと考えたんだろう。だがそれを阻止した。いや自殺なんてこれっぽちも考えてないんだけどね。つまり命を救ってくれたわけだ。なのにこの人何て言った最後の方。「死ね」?死ねっつったよね!?矛盾じゃねここ?大きく突っ込むところじゃね?
そして何故失恋したと知っているんだよ君。

「いいか、生きてたらなまあ色々辛いこともあるんだよ人間だしな。だがそこを踏ん張って生きて行かなきゃなんねーだろ!わかるか?」

「は、はあ。あの」

「命を粗末にしちゃなんねえ。失恋とか辛いかもしんねーけど、そんなことで死のうとか考えんなよ!」

「は、はあ。それで、」

「いいっていいって!俺は人間として当然のことをしたまでだ!お礼とかいいから!」

「いやあのう、だから」

「俺か?俺はただの道行くイケメンだからまあサインぐらいなら「いや話聞けよ」…え?」

「あ、……すんません!ってか!いつからいたんですか?」

「………バカヤローってお前が叫んでいるあたりから」


最初からじゃん!


気づけ自分!


「あの、危ないところを助けていただき、ありがとうございました。けどこれだけは言わせてください」

「あ、ああ」

「私自殺しようとしてません。てか落ちそうになったのはあなたがいきなり後ろから声かけたからです。あと盗み聞きとかよくないと思います」

「…………」

「……じゃあ、ありがとうございました」

「……ちょ、待て!」


とっとと立ち去ろうと思った。ほら多分私男のプライドってやつ?傷つけちゃったかな?なんて思ったし、この人にプライバシーを侵害されたわけだし。うん怨むよ。そしたら以外や以外呼び止められた。…何だこの人。


「…何でしょう?」

「俺の名前はシリウス・ブラックだ」

「……え?」

「だから、シリウス・ブラックだ!」

「は、はい」

「お前…俺と付き合え!」



ホワイ!?ちょっと待て落ち着こう!「俺と付き合え」付き合え…付き合う…付き合う…。つまり交際しろと言っているのですか。え?そんなの


「嫌で」

「断ったら俺ここから飛び降りる!」

「はあ!?」


そう言って彼は手摺りによじ上って仁王立ちで私を見下ろした。表情だけはさっきと変わらずどこまでも偉そうだ。
てゆうかおいこら!さっきまで私に命を粗末にすんじゃねー死ね!とボロクソ言ったのはどこのどいつだ!もういっそのこと飛び降りて私を解放してください。


「いやちょっと落ち着いてください!」

「俺は本気だ」

「いやいやいや困ります!」


私のせいで自殺されたら!絶対夢とか出てくる!そして呪われる!


「じゃあ俺と付き合え!」

もう何なのこの展開!


「あの、ブラックさん?」

「シリウスだ」

「シリウス、さん?」

「何だ」

「ほ、本当に本気、なんですか」



すると彼は一層自信満々の表情で私を見下ろした。…あ、この顔、



「俺はいつだって、本気だぜ?」



にっ、と笑って白い歯がキラリと光った…ように見えた。さらさらと細い髪が風に靡く。



「わ、わかりました!わかりましたから!何でもしますから!だから、」


降りてくださーい!と言うと、また一層笑ってひょい、と地面に降りてきた。あー嫌な汗かいた。もうやだ心臓もたない。
「ちびるかと思ったし」と言って悪戯な笑顔で頭をぽりぽり掻いているその表情がちょっと小憎らしい。

でもまあ、その笑顔にやられたのも、事実だ。悔しいけど。


にこにこと笑っている彼の隣で冷や汗を拭っていると、先ほど塔の下に落ちて行った白いものがまたどこからともなくひらひらと私たちの間に落ちてきた。彼はそれを救い上げて言った。

「…ヤドリギだ」

そうその白い光る花びらは確かにヤドリギの花びらだった。小さな花びらが私の上に優しく落ちてきて彼はまた白い歯を出して笑うもんだから、私もつられて笑ってしまった。










「今日、男にフラれてたペチャパイの女がいたんだよ」

寮に戻る途中、彼がそんな話をした。なぜかもう手とか繋いでしまっている。(案外その手は男らしいです)

「こっぴどくフラれてた。好きな奴にはすげえ巨乳の彼女がいんの。そんときのあいつの顔がおもしろかった」

ふーん。…私だよね?てゆーか今思い出したけど、あの時私のこと指差して笑ってたのって…シリウスだよね!?もう一人は眼鏡してた。ああ、そういうこと。
私はその瞬間繋いでいる手を離してぶん殴ってやろうと思った。

「けど、その女可愛いんだ」


え?


「俺知ってたんだ、その女があのどーしよもない男のこと、ずっと好きだったの。何故って、俺、その女のこと好きだったから」


好きだった?つまり私を?ききき気づかなかった!だってシリウスと話したの、今日が初めてだし!


「その女の傷ついた顔みたら、もうほっておけなくなった。好きだから」


また好きだからと言ったシリウスの横顔は、世界一かっこよかった。私の胸は大きく波立った。


「なまえ…」

「…はい」

「ずっと、好きだった!」


私もこの瞬間、世界で一番大好きです!





















世 界 が か わ る



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