「何で、あんなことしたんだ!」

真っ赤に張れた彼女の頬が憎かった。その頬を睨みつけながら僕は自分の下唇を強く強く噛んだ。彼女は馬鹿だ本当に。冷たい空気が通り過ぎるだけの廊下を僕らの足速に歩く足音だけがこだまする。彼女は時々足を絡ませていた。


「ごめん、ごめん」


さっきからそれしか口に出していないまるで壊れた人形だ。そして時々僕に引っ張られていない方の手で自分の張れた頬ととめどなく流れる涙を拭っていた。きっとそのローブはもうびしょびしょに濡れているだろう。素直に感情を表に出して考える前に行動する彼女を僕は知っていいる。だから、今更彼女を責めたって意味は無い。ただ僕はこの行き場の無いそして名前の無い気持ちをどうすればいいのかわからなかった。




いつもと変わらない昼下がりの湖畔で日陰で本を読んでいたらカツリ、と石の上を滑るような音がした。すぐに誰かが来たのかとわかったが振り返ったそこにいた奴らを見て僕は憎しみと恐怖を感じずにはいられなかった。
「逃げるなよスニベニー」僕は逃げてなんかいない。「パットフット、捕まえろ!」僕に触るな。「何だよ、その目は」僕を見るな!

そして奴らは杖を取り出して何かを呟いた。僕は無意識に顔を手で守った。杖から光が出ているのが指の隙間から感じられたけれどそれは何かの衝撃と共に消えた。
「セブルス!」と誰かが僕の名前を叫んだと思うと僕は強い衝撃を受けて地面に転がった。「きゃあ!」と叫び声が上がり次の瞬間僕の前に小さな背中が倒れ込んだ。鈍い音ががして湖畔の小石達はばらばらと飛び散った。誰かが言った。「みょうじ、君どうして!」
みょうじだって?そう確かにその後ろ姿は小さな背中は揺れる細い髪はみょうじだった。彼女は弱々しく肩を揺らしてそして頬を押さえていた。そして言った「セブルス、ごめん」
奴らが走って学校へ戻っていくのを睨みつけて僕は何かを叫ぼうと思った。その背中に石を投げてやりたくもなった。もしかしたら殺してやりたくもなったかもしれない。でもみょうじが言うんだ。「ごめん、ごめん」て、しばらくして起き上がった彼女の手を引いて僕は学校の方へ急いだ。



「僕は頼んだか?いつ君に助けてくれって頼んだ?それとも僕が惨めだったか?可愛そうだったのか?」

息が切れるかと思うほど大きな声を出した。それでも彼女はただ「ごめん」と繰り返すだけだった。涙は、相も変わらず頬を流れる。その雫が一滴一滴落ちる度に僕の心に沁みた。苦しい。




だから僕もいつの間にか泣いていたんだ。苦しいんだ君の啜り泣く声が聞こえる度にその赤く張れた頬を見る度に僕に「ごめん」と言う度に、僕は自分を責めずにはいられなかった。彼女を傷つけたのは、僕だ。僕は彼女を守れなかった。



「ごめん」

「セブ、ルス?」



彼女は僕の涙を目を丸くして見ている僕もいつの間にか止まることのない涙が頬を濡らしていた。涙でみょうじの顔が、歪んで見えてその赤く張れた頬もなんだかもっと痛そうに見えた。



「お願いだから僕を庇おうなんて、守ろうなんてしないでくれ」

彼女は僕を真っ直ぐに見つめていた。まるで僕の弱いところを全て見透かしているような透明な瞳だった。

「嫌だよ、あたしは、セブルスを守るよ」

「でもそれで君が傷付いたら!」

「あたしより、セブルスの方が傷付いてるじゃない!」

強い瞳が揺らぐ涙。なぜだろう、僕を捕らえて離さない。


「ずっと大きな、傷を負ってるじゃない…」



いつも僕は叫んでいた。苦しいかった、悔しかった。そして君を傷付けられて本当の辛さを知った。大切な人が傷付けられている。それを目の前にしてこれ以上の苦しみや悔しさがあるだろうか。彼女も今、同じ気持ちなのだろうか。



「僕を、守ると言うのか」

「うん」

「でももし、これ以上の傷を負ったらどうするんだ」

「それでも、何度だって、あなたを守るよ」




彼女は笑った。窓から指す傾いた太陽の光がその笑顔を照らして、眩しかった。


僕は涙を拭ってその手で彼女の頬を包んだ。じんわり、と温かみがある。片方は張れているけど。
包み込んだこの温かさを、僕も精一杯守ろうと思った。







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