どうして、こうなったのか僕は今でもわからない。でも気がついた時にはそれが当たり前になっていてもういつの間にか目を閉じて深く深く思慮の底に潜り込まなければあなたを見つけることが不可能になってしまったんだ。
ねえ、兄さん。
「レギュラス!レギュラス起きろ!」
「兄…さん?」
「ベッドから出て、ほら行くぞ」
こんな眩しい笑顔を僕は追い掛けていた。幼いとき、何も恐れずにただ明るい方へ走っていく兄さんを僕は間違ってるなんて思ったことはなかった。僕に優しかった兄さん、何でもできる兄さんは僕のただ、憧れだったんだ。
「こんな夜にどこへ行くの?」
「今日は流星群の日なんだ!」
「流星群?」
でも駄目だ。駄目だよ兄さん。
「どうしたレギュラス?」
「駄目だよ、兄さん」
「レギュラス?」
「僕は出られない。出られないよ」
見えない線と壁が僕らの間にはある。兄さんがどんなに強く僕の手を引いてくれたって僕らの間にはもう越えられないものばかりなんだ。
兄さんの顔が、僕を見る顔がいつの間にかあの笑顔じゃなくなっていて…
そして真っ暗な闇が押し寄せたと思うと、兄さんはその闇に飲まれていった。
―兄さん!
「…っ、」
夢を、見ていたようだ。
体中がじわり、と汗に塗れて気持ちが悪い。首を伝う汗を拭いて、僕は天井を見上げた。
今更なぜこんな夢を見たんだろう。もう兄さんとは、関係ないじゃないか。口も聞かなければ目も合わせない。なのに、なのに何でこんなに…
時々無償に、あの笑顔を見たくなるんだ…
「レギュラス?」
部屋の扉が開く音がしてそこにいたのはなまえ先輩だった。
「…どうしたんですか、こんな真夜中に」
彼女とは別に付き合っているわけでもないけれど一緒にいる時間が何となく居心地がよくてよく一緒にいた。屈託のない笑顔で笑われると妙に温かくなる、そんな仕種が、誰かに、似ていることを僕は当に気づいていた。
「あのね、今日流星群なんだって!一緒に見に行かない」
「そんな、こんな時間に外に出て誰かに見つかったら、」
「大丈夫!あたしがいるじゃん!」
ほら、その笑顔。
僕は衝動的に彼女の肩を抱き寄せた。
「…レギュ、ラス?」
「…っ、」
どうしたの、こんなに汗かいて。と優しく僕の背中を撫でるその手が愛しい。
僕はどうして大切な人を大切だと言えなかったのだろう。その人がいなければ僕はいないのに何故遠ざけたりしたんだろう。そう考えると涙が止まらなかった。
行こう、と差し出されたなまえ先輩の手をとって僕は見えない線を飛び越えた。
あの時の僕とはもう、違う。
声になる前に
感じたことがある
もう僕は大切な人に大切だと言える人になれたようだ、