その昔、シンオウへ家族旅行に行った時に、出来が良いとされる兄がみっともなく石ころに躓いたのを見た、幼い私はここぞとばかりにその鉄球のような石を持ち帰った。 後々に、兄が躓いた屈辱の石として飾ってやろうと、鬼の首でも討ち取ったかのような気持ちでワクワクしていた記憶がある。
けれども、手放してたまるかと枕元に置いて寝たはずのその石は、目覚めたらそこには無く、ジタバタと暴れる奇妙なポケモンを抱えて寝ていたのだ。 石を話のネタに兄をおちょくってやろうと思っていたのに、と悔しくも思ったが、そこは所詮、お子ちゃまである。 すぐに、興味は抱えられていたツルンとした頭のポケモンに移った。
「まったく、何ですか、その締りのない顔は…」
「いや、同じ顔だし。」
「だから、言ってるんですよ。」
「んーとねえ、ちょっと思い出そうとしていた事があってね…」
「昨晩の夕食すら思い出すのが危ういんですから、あなた。 考えるだけ時間のムダだと思いますが、精々、なけなしの頭を絞りなさい。」
「あーあ、あの石はどこ行っちゃったんうなあ…」
「また何か無くしたのですか、いい加減になさい。」
「だから!今の話じゃないって、言ってるでしょう!!」
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