「あんな約束なんかいらない…」
「…え?
嘘だろ!!ナマエ?!!
うわっぷ!!ヒドいじゃないか、痛い!いたっイタタタタ!!」
何の因果かこうして再び巡りあう事の出来た僕らであったが、その出会いは決して一概には幸福であるとは言い難かった。
吊革に項垂れるように掴まっていた僕の足を盛大に、そのパンプスのヒールで突き刺さんばかりに踏みつけてくる、どこにでもいますといったオフィス務めの装いをしたナマエには心から驚いた。
それに、いつも目蓋の裏にあった君の姿とは大きく違った。ずっと大人びていたし。
「ナマエ…本当にナマエだ…あああ」
「随分とお元気そうで、何よりじゃない!
ねえ、マルコ・ボットさん?」
「お、覚えてくれて光栄かな、ははは…」
「笑って誤魔化そうなんて、許さないんだからね!」
「"此処で会ったが百年目"ってやつかな?」
「残念ながら、2000年は軽いのよ。」
「ゴメンじゃあ済まない話だから、僕と結婚しよう。」
「この状況で言うの、それ?
情緒もへったくれもないのね…
気の利く班長さんはどこ行っちゃったのよ…」
「外回りからの帰りで、そのままランチに出ていましたっていう状況かな?
失礼な、ナマエの目の前に居るじゃないか、ほら足だって地についてる。」
車窓を流れる景色すら、かつての記憶とはかけ離れているし、どうしようもなく埋まらない空白が多いのだって知ってる。
「……式は皆を呼ぼう…ドレスも白無垢も着たい。
あと、新婚旅行はハワイがいい。ひたすらビーチでゴロゴロしたい。」
何を言い出すかと身構えたが、泣きながらそんな事言わないでほしい。
正直なところ、僕だってみっともなく鼻水垂らして泣いて喜びたいんだ。
優先席に腰かけたお爺さん、冷やかすならどうぞ冷やかしてくれ。
頼むから、勝手に感動して泣くな。僕だって、泣きたい。大事な事だから二度言うけれど。