凍えてしまわぬように 

「私、さくらなんて嫌いなの。」

「何故です?大衆をも惹き付け、この国の者の真髄とも扱われる花なのに。」

「潔く散る姿が美しい?美しいだけで結局なにひとつ起きやしない。
 だったら苦しい冬に咲き無様にボトリと落ちて、腐って、踏みにじられて、
 その方がよっぽど私なんかには似合う、そう思わない?」

「どうでしょう、私には理解しかねます。」

散り際に美しさなんて望んだら簡単には死ねないじゃないの、ね?

私の発言を心底つまらないと、口の端をニィと引き上げ笑う天邪鬼な彼女はどこかでは寒椿と呼ばれていたそうです。
艶やかな口紅は、引っ掻けてしまった瘡蓋は、流れていたであろう血潮は、確かにその様な色合いをしていたかもしれません。
しかし、私の知る貴女はナマエというただのいとおしい女でしかなかったわけです。

さようなら、死して尚美しいナマエ。
いいえ、細く白く冷たくなった貴女はどこも美しくなどはない。
艶やかという以外に形容する言葉を知らないわたしに、そう思わせたふくらとした唇が弧を描くこともなく、
ただ一文字に引き結ばれ皺を刻んだそれに在りし日の面影など微塵も在りやしない。
いっそ望み通りに腐り行く貴女を踏みにじってみせましょうか。

どうにも、わたし死という物には疎いのです、幾重に年月を経ても見送る者が在っても、我が身に起こらぬものですので。
ですけれど、ええ、散り際は美しく、そうありたいと切に願います。
外道ならば良かったのです。人の形を成し、半端にこころなど持ってしまうから凍えてしまい、苦しいのです。


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