ソーダ水に溺れた二人 

「良いんですか、まさか貸切なんて…!」

「いえ…別に、ね?」

どうせまた、アウトサイドには属さない私からしたらロクでもない事をいとも簡単に仕出かしたんだと思う。想像に容易い。
深夜のこの時間に開いている場所なんてまず早々無いだろうし、ましてや貸切なんて。

仄暗い館内には普段の営業時間なら溢れるほどに聞こえるはずの子供の声や、
人々のささやきすら全く聞こえないというせいで、どこか知らない遠い世界のような雰囲気すらが漂う。
いや、そんな世界は見た事も聞いた事もないから本当はよく分からないのだけど。

水槽のろ過装置の音とブクブクと弾けては消えて、また増えては弾けるを繰り返すだけ泡の音だけがいやに響く。
一歩先を行く彼は、その静けさや冷たさとかが綯い交ぜになった途方もない闇に紛れて消えてしまうのではと恐ろしく思う。
そして、わたし一人ではきっと怖くて立ち竦んでしまうだろう。

「アポロさ…、」

ここは怖いからと、そっと絡めたようとした指先を逆に絡め取られ、呼びかけようとした名前も途絶える。
ひやりとした館内のコバルトの照明に溶け込むような薄氷のような青い瞳を細めて、私に口付ける。
酷く緩やかな手付きで、私の頬を撫でたかと思うと後頭部を掴まえる。
ほら、私はもう逃げられない、水槽の中の魚の無機質な瞳と私の視線がぱちりと合った気がした。
確か、生物の始まりは泡だか有機物がどうたらがどうのっていうのが海から始まったんだっけ。それは、きっと、こんな感じ。

「お前の為ですから、何も惜しいことなんてないのですよ。」





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