ぐい、と髪を掴まれ強制的に視線を合わせられる。地味に痛い。
その無駄にお綺麗な顔に唾でも吐き掛けてやれたら、どんなにせいせいするのだろう。
私の痛みでも、悩みでも何でもない。目の前の彼が酷く苦しそうなのが、辛い。
今、掴まえられている私の中途半端に伸ばされた髪だって、彼が珍しく褒めたものだから伸ばしたんだったんだと思う。
人一倍思い悩む真面目そのものみたいな、自信に完璧を求める彼がこの世界では偽って生きている。
そりゃあ、思考回路が可笑しくもなるんでしょうね。
生憎だけど私はそこまで、今この置かれた立場にさして思い入れは無い。
自分の生命維持と根拠のないプライドだけは棄てたくなかったからであって、別に好き好んでいるわけでもない。
だから、彼を軽蔑するわけでもないし、出来ない。
「何がしたいの?」
「別に訳なんてありません。もしも逐一行動に理由が必要ならば、まず私の存在意義を問いただしてみてはどうです?」
「屁理屈で返さないで。」
「屁理屈だって、通せばただの理屈ですよ。」
こんな下らない駄々を捏ね続ける、子供のようと比喩すれば良いが、立派とは胸を張って言う事も出来ず、例え大衆が口を揃えて言うだろう悪い大人でも。
そんな、どうしようもない彼の相手を出来るのは私だけなんだろう。そう、思い込んでいよう。
「教えましょうか、私はナマエが欲しいだけなんですから。」
「奇遇だね、私も思っていたの。」
(望んでくれるなら、愛してあげる)
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