雨の日はあかいくつ 

しとしと、と降る雨でエナメルのミュールの爪先にオペラレッドを映した水滴が乗っている。この靴は私のお気に入り。綺麗でしょう。

「雨の中で傘もささずに、どこにいくんですか?」

アポロさんは私を引き留めなかった。
だから、どうせ戻るつもりのない家出なら、一番のお気に入りの服と靴で。
傘なんかささない。だって、振られちゃったんだし、降られてるんだし、少しくらい惨めなくらいがちょうどいい。
髪が濡れてしっとりと頬に張り付くのが鬱陶しい。雨に濡れて歌い踊ってでもみればいいのかな、でもそれは幸せな話だったはず。
服も鞄も水分を多く含んだのか、重い。それに比べて私の心は早くも吹っ切れてしまったのか、どこか軽かったけど。あら不思議、反比例だなんて。

突然、背後から回された腕に抱き寄せられてぎょっとする。
すっぽりと収められた私の体も、閉じ込めた腕の持ち主も、お互いに冷たい。
ここ、一応、道のど真ん中。そして言わずもがな公然の場であって、目立ってはまずいだろうあなたが、映画のワンシーンに留めて置いて欲しいような熱烈な愛情表現はやめて。
きっと、これにはジュンサーさんも苦笑いしちゃう。

「ナマエ、何を思ったのかは知りません。だけど、傷付けてしまって…、すみませんでした。」

アポロさん、バカじゃないの?あなたこそ、傘もささずに追いかけたりして。
淡い水色の髪の先に雨粒を躍らせて、あぁ水も滴る何とやらとはこの事かと眩暈がする。
ねえ、思慮深いあなたが考えもなしに飛び出して追い掛けてきてくれたって自惚れてもいいの。

足下の水溜まりにやっぱりオペラレッドの爪先が映えていた。
もうこれじゃあ泣いてるのか雨なのか、分からないよ。


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