逃亡開始 

不意に窓をノックする、コツコツという控えめな音に気付きカーテンを捲くる。
これが夜中だとしたら怖いモノだったかもしれない。
けれど空を飛べるポケモンを連れている友人やらが、ここから訪れることもあるので決して珍しくはなかった。
例の通り、相方のゴルバットに掴まりガラス一枚を隔てて「開けなさい、」と催促する彼。

催促に従い、窓を開けると図々しくも気だるげに窓枠に腰掛け、その白いブーツのまま部屋に遠慮もなく上がる。

ラジオ塔にて、呆気なくロケット団は解散。
そういった経緯やらで、ランスさんはここまで逃げて来たらしい。

「捕まるのは御免なんで、時間はありません。」

返事は早急にお願いします、と。にやりという効果音がいかにも似合う、そんな調子で口角を上げて目元を歪ませて笑んで見せる。
私の返答なんてお見通しでしょ、いつも通り。ばちりと目が合う。

「勿論、一緒に行きます。」

「以外にも即答でしたね。」

「ランスさんとなら、構いません。それに、駆落ちだなんてまるで映画みたいじゃないですか。」

映画の様な展開を望むのでしたら教えてさしあげます、と口元に人差し指を添えて先程とは打って変わって邪気のない子供のような顔で微笑むものだから、どうにも呆れる。

先程、即答していましたが返事が良いものではなかったとしても、私はきっとナマエを連れ去っていますから、ね?
ヒロインが拉致されるなんて、月並みな三流映画もいいところですが。

ランスさんは至極の笑みで、これまた凄いことを企んでいたようです。あぁ、なんて危ない。
気障で歯が浮いてしまいそうな言動すらが簡単に様になってしまう、この人。
それこそ何処かの映画の一コマから抜け出してきたかと悩ませてしまう。
そして、こんな調子の彼に魔法に掛けられたかのようにすっかりと惚れ込んでる自分もどうしようもないな、と思った。

「では、周りが騒がしいので一度目を逸らして来ます。また後で。場は分かるでしょう?いつものそこで落ち合いましょう。」

攫われてもどうぞ構いませんから、早く迎えに来て下さいね。



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