行きずりの恋に輪をかけて 

受験も終わり、卒業までの残り少ない間を各々忙しなく過ごす頃。

なんと、この生まれて18年に渡って何かと縁のあった、幼馴染みが新学とともに地元を離れて独り暮らしだ何だで引っ越すそうだ。
これでこの見飽きた馬面との関係に終止符が打たれるのかなどとぼんやりと考えつつ、積み上がった段ボールと格闘する。

「あ、ジャン!この絵もらってもいい?」

バカみたいな量のクロッキー帳に埋まり、おざなりに立て掛けてある物の中から、少し小さめのカンバスを引っ張り出した。

そもそも、絵を描く姿が似合わない。なのに、意外や意外にも、ジャンは絵が上手いのだ。
人を見た目で判断してはいけない。どこか研ぎ澄まされたようで素直な絵からは彼の性格が伺えるぐらいなのである。

「オイ、ナマエ、なに勝手に漁ってんだよ!!」

「大丈夫、大丈夫。手前のクロッキー帳は黒髪の女の子のデッサンで埋まってたなんて見てないし、知らないから〜」

「何も大丈夫じゃねェよ!バカかっ!!」

フェチを拗らせて、もはやマニアの域に達しかかっている、幼馴染みを軽く憐れみの目で見つつも、
てんで、その道に明るくないわたしには詳しい事は分からないけれど、理想を求めて試行錯誤を繰り返しただろう筆跡は確かに美しいのだと思う。

からかってはみたものの、わたしが見付けてねだっているのは、この小さなカンバスだった。

「ねぇ、これってもしかして…」

「あぁ、そうだよ…!!!」

どこか気まずくなり、お互いに言葉が絶えてしまうこと少し。
途端に離れてしまう事が淋しく思えた、現金な自分に呆れて、悔しくて。思わず俯いてしまったのだ。

しかし、それも長くは続かない。それなりに大きな音を立ててイーゼルが倒れた。
狙い澄ましたかのように、そっぽを向いていた、持ち主の頭へとぶつかった。あれは確実に痛い。
タイミングがタイミングだった為に、先程までの乙女チックな私はどこへやら、思わず笑いが溢れた。

「あのさ、たまには電話してよ。…勿論、おばさんにもちゃんとね…?」

「お、おう…」





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