錆びかけて所々が赤土色になった南京錠で施錠されていた為に大して頑丈にも見えない扉を蹴破れば屋上に出れる。
案の定、簡単に蹴破れるどころか、同じ様な考えの先客が居たせいで既に破壊済みだった錠を蹴破ろうと、勢い余って屋上に転がり込む事にはなったが。
「止めに来た訳じゃなさそうだし、もしかして、ぼくと同じ目的だったりする?
だったら、止めとくのが正解!優しいぼくからのアドバイス!」
ぼくは飛ぶ、その後にきみも飛んだらきみは得体の知れないぼくと同じ場で死ぬ。気持ち悪いでしょ。
こーみえて、ぼく、ちょっとした有名人だから、ぼくと見知らぬキミが一緒に死んでたら、
心中なんて時代錯誤な言葉に置き換えて面白可笑しく騒がれるかもね、と張り付けたような笑みで捲し立ててくる先客。
死にに来るような人間が煩いとかやめて欲しい。
「ぼくはイチ、ニイ、サンで飛ぶ!
こんなところ長くいたら、しぶっちゃうからね。」
彼が背中を預けたフェンスがギシッと不穏な音を立てた。
どうせ安全性を求めるつもりは無いのだろうから気には止めなかったけど、私の残った良心と何かが焦って焦って気持ちが悪くて這いずり回る。
「キミがどうしようと、ぼくは居なくなった後だから本当はどうでもいいんだ。
……じゃあ、またね!」
先の短いカウントダウンを初め出した小煩い先客がまたね、という言葉を使ったことに違和感を覚える。
「…待って……!」
「しぶっちゃう、ぼくは言ったよね?
質問なりなんなり、別にもう隠す事も何もないから何でも答えるけど、
あんまり時間は掛けたくない、だから簡潔にね。」
「なんで、またねなんて使うんですかっ」
「意味なんてないよ、意味なんてね!
そのまんま、どこかでまた君に会える気がするそれだけ!」
じゃあね、と行ってビルの谷間の風に彼のコートの裾が忙しなくはためいて、見事なシティスケープに飛び込んだ。
帽子だけが煽られたのか、私の爪先に取り残される。
どうしようもなくて、何をしたら良いのかも分からなかった。
だから、その彼の帽子を拾い上げる。拾い上げてどうする、の。分からない、考えなくちゃ。あれ、私の目的はなに?
(きみはきっと飛べないよ、飛びない理由に悩んで、悩んで、また出直しておいで。)
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