「何ですか?」



ソファの上から反らすことなく向けられる視線にどうしていいのかと言う戸惑いを含めた声で言った。



「てめェーは仮面でもつけてンのかァ?」



何とも言えない間をたっぷり置いてポツリ、ルノンに向かって溢す。

分かりづらい質問に、自分なりの考えで訳してみるが、他国後よりも難しいのではないかと勝手ながらも結論づけて質問返しに移る。



「………仮面、ですか?」


手を顔の両サイドに置き自分の顔の前には仮面があるのかと着脱の仕草をしてみせながら小首を傾げた。

アホらしい仕草に嫌ではないが癖と言った感じで舌打ちをひとつ。



「比喩だッてェーの…」

「…?」



ますます訳のわからないことになって来て、反らされた一方通行の顔を覗き込む。



「チっ…だからァー」

「っ!」



ソファの背に立っていたルノンの腕がいきなり引っ張られた。


グラッ…と重心がズレてバランスを失う。

あっ、と言う間に視界が一転して目の前は一方通行でいっぱいになっていた。





「なンでいつも同じ表情してんだッて言いてェーンだよッ!」


もうやけだ、と付け加えそうな勢いでそう言った一方通行の顔はあろうことか仄かに赤い。


しかし、一方のルノンは視線を下に向けてしまって、何一つ情報を得ることが出来なかった。





「……」



余りにも喋らないルノンに、お得意の即席睡眠かァ?と今度は此方が顔を覗き込もうとした。





……が、ルノンはいきなり身体ごと向きを変えて一方通行に背を向けてしまう。


なんだ、と不快そうな表情を浮かべ、此方に向かせるべく肩に触れようする。





「仮面っ…」

「あァ?」


「っ…仮面、なんかじゃ…ないです」


「だから、比喩ッつただろォーが…「少なくともっ!」」



頭をワシャワシャと掻き悪態をつくような態度で言い放った言葉は、ルノンによって止められてしまった。

そして突然振り返る。

ルノンの動きについてくることの出来なかった長い髪が、後を追うようにふわふわと宙を舞った。


そこにあったのは、仮面なんてものさえ忘れさせるような……頬を染め、眉を潜めて必死で何かを伝えようとする、普段の大人びた表情を微塵も感じさせない年相応の表情をしたルノン。

何かを言おうと、口をもごもごさせている。

ルノンが小さくだが、確実に口を開いた。

「貴方の前では…外し、てる…つもりです」


語尾を小さくしながらも、一方通行の目をしっかりと見据えて言ったルノンの瞳には今にも泣き出しそうな程に水滴が溜まっている。



「ッ…チ、」


再び舌打ちをして、ぎこちなくルノンの瞳に溜まる涙を拭う。


そしてルノンにでさえ、聞こえるかどうかわからない様な小さな声で呟いた。















「そうかよ…」











仮面崩壊
(これから)(もっと)
(君に笑って)(みたいんだ)




110207



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