「おィ…」



いつもより二割増しの低い声にルノンの身体がピクリと動いた。

一方通行に背を向けているルノンはそのままの状態で此方に顔を向けようとはしない。



「無視かてめェーは」



表情を見なくとも苛立ちが理解出来る声色に小さくだがルノンは声を出す。



「な、んですか」


「今日誰と何処に居た?」



責め立てる様な一方通行の質問にルノンは口を紡ぎ小さく下唇を噛んでみせた。


ガッ、と前髪を鷲掴みにされる。



「っ…、」


「言え」


「私、の…」


「あァ?」



言葉を途切れさせながら言うルノンに苛つきが絶頂を向かえていたのか、鷲掴んだ前髪を更に持ち上げ自分の方へ引き寄せる。



「さっさと言えっつってンだよ」


ルノンの耳元で耳の中を舐め回すように掠れたような声を出し、掴んでいた前髪を放すが一方で肩を掴み、手加減に加減を加えた最小限の反射を発動させた。


「っ…!」


ルノンの身体が勢い良く後ろに飛ぶ。



「かはっ!」


一度宙に浮き、空から矢でも降ってきたかの様に床へと貼り付けられる。
急いで立ち上がろうとするが時既に遅し、ルノンの上には一方通行が覆い被さる形になってルノンの顔の横に手をついていた。



「そんなに言いたかねェなら別に言わなくてもいいンだけどよォ…」


近づいてきた一方通行の髪がルノンの頬をくすぐる。





「いちいちあんな奴ンとこなんざァ行かなくとも、俺がたっぷり可愛いがってやるぜ?」


「っ…ん、」



一方通行の唇がルノンの唇に重なった。


その間に一方通行はルノンの肩辺りを隠す服をずり下げる。

白く不健康な肌が露になり、その中でも一際目立つ青紫の色をした部分が目に入り、その箇所に指を滑らせた。



「チッ…痣になっちまった」


まるで自分の身体のことを語る様にルノンの痣を見詰めながら呟く。

その痣に舌を這わせて軽く押してみる。



「ゃ…」



身体を震わせながら、地味な痛みに抵抗の声を漏らす。

猫の様な鳴き声に一方通行は気を良くしたのか、口角を高い位置へと移動させた。


痣を舌で押されたまま、片方の手首を捕まれる。

次の瞬間には何とも言えない鈍い痛みが手首付近に広がり、何か生温い液体が腕を伝っているのを感じた。



「な…」



余りの違和感と鈍痛に奥歯を噛み締めながら自分の手首に視線を送る。

そこには綺麗に一直線に入った紅い線。

そこから溢れるのは間違えなく自分のものと思われる血液だ。


驚きと共に、一方通行の顔が肩から消えていることを知る。

しかし…先程と同じ様に、軽く唾液の音を立て手首の傷口に一方通行の舌が触れた。



「ひっ…ぅ」



唾液が傷口に入り込み、まるで何かを打ち込まれているような錯覚に陥る。

まざと傷口を痛めつけようとしているのか、赤い線の割れ目を舌でなぞられる。



そして、一方通行のルノン同様不健康極まりない唇が微かに動き出した。

























「血液逆流が御望みですかァー」


感情の欠けた声に乗せた言葉は、ルノンの身体に大きな恐怖と小さな愛情を植え付けて去っていった。








愛狂少年
(だってそれは)(全て全て)
(君への)(愛だ)




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林檎さんへ(1000hitフリリク)



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