容姿端麗、頭脳明晰、生徒会の会長で、テニス部200人の頂点に立つ、強いカリスマ性を持った人。一般の凡人のあたしとは程遠い跡部くんに、恐れ多くも恋をしてしまっている。

きっかけは一目惚れという、よくあるパターン。中等部の入学式のときに、代表挨拶で壇上に立つ跡部くんを見たその日から、あたしは彼の虜になってしまった。アイスブルーの瞳も、常に伸びた綺麗な姿勢も、妥協を見せない強い精神も、全部あたしとかけ離れたものだから憧れる。

ただ、あたしは近付くことができないから、ずっと彼を見ているだけなんだ。



「あ、跡部くんだ」
「えっ」



バサバサッ。友達が発した名前に反応して、持っていたプリントを全部落としてしまった。A4サイズの紙が廊下の隅まで広がっている。何してんのよーと呆れながらも拾いにしゃがむ友達を見て、自分も慌てて拾いだした。

名前を聞いただけでこんなに動揺してしまうなんて、もう末期なんじゃないかって思う。近くにいるわけでも、ましてや話し掛けられたわけでもないのに、心臓はドキドキドキドキ。こんなんじゃ、万が一お話する機会がやってくるとして、まともな受け答えなんか到底無理なんだろうなあ。( まあそんな機会は一生こないんだろうけど )耳が熱い。好きって気持ちがこんなにも大きくなっていたことに、自分でビックリした。

好きだなあ。伝えることはできないけど。



「全員分、ちゃんとある?」
「んー多分…」
「多分って」



一通り拾い終わって、集めた枚数を数えてみる。1枚、2枚…指先が乾燥しているのか、なかなか捲れなくて数えにくい。( ああ、水分がほしい… )廊下の隅の方に寄って数えていると、目の前に薄茶色の藁半紙が差し出される。反射的に顔を上げると、左目の下にある泣きボクロが印象的な綺麗な顔が視界いっぱいに広がった。



「……ぁ、」
「落ちてたぞ」
「っ、あ、ありがとうございますッ」



跡部くんは、いつも見せる得意気な笑顔じゃなくて、少しだけ柔らかい雰囲気をまとった笑顔を浮かべてその場から去っていく。そんなの、あたしの見間違いかもしれないけど。( お話…しちゃった… )ほらね、やっぱり吃っちゃった。今のあたしには、あれが精一杯だ。




夢を見るには早すぎる





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