具合が悪い自覚はあった。ずっと微熱が続いてて、なんか体が怠くて。お母さんからは 休みなさい ってずっと言われてたけど、頭に引っ掛かるのは部活のこと。今年こそ全国の頂点に立つんだ。そんな活気で溢れてる今、休んだらみんなから置いてかれそうで、怖くて休むことができなかった。テニス部のマネージャーが、あたしの唯一の居場所。この場所を失うくらいなら、風邪ぐらい我慢できると思ってた。

ホントにただの風邪だと思ってたの、今日このときまでは。



「え…癌…?」
「だいぶ進行してますから、あと半年、持つかどうか…」
「そ、そんな……」



泣き崩れるお母さんを横目に、どこか冷静に感じてるあたし。この診断が下ることを前から分かってたような、そんな感じだった。

あと半年か。全国大会は8月やから、あ、そのときはまだ大丈夫や、よかった。癌って痛いんかな、それとも今までみたいに怠いだけなんやろうか。部活に支障が出るのは嫌やなあ…。こんなときまであたしの思考は部活でいっぱい。だって仕方ないやん。テニス部が好きやねんもん。

白石の完璧なテニス、忍足のスピード、小春ちゃんと一氏のお笑い、誰をも魅了する千歳のプレイ。弟みたいにかわいい金ちゃんとか、石田くんの落ち着いた温かさとか、小石川のサポート力とか、あと、( 財前… )いつの間にか名前を呼ばなくなった幼なじみのこと。大好きで大好きで仕方ない彼らと過ごす時間は、あたしの青春そのものだったから。


そうか。

半年経ったら、もうみんなに会えなくなっちゃうんだ。



「……落ち着きました?」
「ん、」
「帰ろ、先輩。おばさん心配しとったで」



一足先にトンネルを出た財前が右手を差し出す。その手に触れていいものか、一瞬悩んだけど、自分の左手を遠慮がちに重ねた。そこにあたしの知ってる柔らかい手はなくて、少し骨張った男の子の手。( あったかい… )低体温の彼の手は、赤ちゃん体温のあたしと同じくらい温かかった。



真っ白な腕が求める先

自転車の後ろに跨る。重くてごめんねって言ったら、いつまでも小学生じゃないねんでって怒られてしまった。



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