古典は嫌いや。昔の言葉って意味が分からないし、訳を調べるのも時間と手間がかかる。それに、昔の文献は比喩表現が多すぎるから、もっとストレートに表現すればええやないかって思ってしまう。ひねくれ者の俺が言えた台詞じゃないけど。( わけ分からん… )黒板にチョークを走らせる教師の目を盗んで、小さく欠伸をひとつ。生理的現象で浮かんできた涙を拭いながら運動場に目を向けると、そこには金髪と白髪の見慣れた2人の姿を見付けた。

授業中であるにも関わらず、部長と謙也さんが振りまくオーラは半端じゃない。運動場からだいぶ離れた場所にいる俺にも、キラキラした何かが飛んでくるようだった。「なあなあ、白石先輩と忍足先輩がおるで」前の席に座る女子も気付いたようで、小声で周りに知らせている。2人の人気に気付いていないわけではなかったけど、改めてすごいんやなと実感した。でも、何かが足りない。



「( ……桜井先輩が、おらん )」



人気がある2人の近くにいても、文句言われることも嫌がらせを受けることもなく、桜井先輩がおるのは当たり前の光景で。その先輩がおらんことに、少なからず俺は違和感を覚える。なんで、なんで朝練のときはおったのに、なんでおらんのやろう。この前、部活中に感じた胸騒ぎが、胸中に広がっていくのを感じた。



‥‥‥‥




「え、未玖ちゃん倒れたん!?」
「2時間目のときにな…今、オサムちゃんと白石が病院に行っとる」



部活前の部室で行われた、副部長たちの会話。ブラウスのボタンを外す手が一瞬止まったけど、乱れた心情を悟られないように、いつものように無表情でいることに努めた。

結局この日、謙也さんにCD貸しにクラスに行っても、昼食のパンを買いに購買に行っても桜井先輩を見ることは一度もなかった。そんな頻繁に見たり会ったりする人じゃないけど、先刻感じた胸騒ぎのせいで、妙な不安を感じてしまう。何かあったんやないか、ただ具合が悪いだけなのか。小さく積もったモヤモヤは時間が経つごとに大きくなって、自分の勝手な解釈ではもう解消仕切れない程に膨らんでしまった。



「謙也さん、打ち合いしましょ。ここで心配しとっても、良うなるわけやないし」
「……せやな、部活始めようや」



ラケットを持って部室を出る。未だ心配そうな暗い顔をしてる先輩らに、どうしようもなくイライラした。



さかさまの世界

ホントは俺だって病院に行きたい。他人から聞くんやなくて、自分の目で無事を確認したい。ラケットを握る左手が、精一杯の強がりの証やった。



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