5月。まだ夏は遠いとはいえ、激しい運動をすれば汗をかくのは当然で、アップを終えた俺の額にはじっとりと汗が滲んでいた。暑い。暑いわ。こんなんで夏を乗り切れるんやろうか。( 溶けてまう… ) ジリジリと照らされてるコートには、うっすらと蜃気楼が見える、気がする。入りたくなくて立ち止まっていると、後ろからラケットで尻を叩かれた。こんなキモいことをするのは、日本中どこを探してもここにしかいない、ホモ2人組に決まってる。振り返ると、そこにはやっぱりラブルスがいた。 「…キモいっスわ」 「秒殺かい!」 「今からわてらと試合やでっ」 こんなに暑いにも関わらず、ベタベタくっついてるラブルスはホンマ理解できん。別次元に住んでるんちゃうかと疑ってしまう。同じ次元の人とも思いたくないけど。( ホモとか死んでも嫌や )ベタベタくっつくのは相方だけとは限らないらしく、金色先輩は俺の右側に、一氏先輩は左側にべったりと引っ付いてきた。暑い、ホンマに暑い。でもここで拒否しても無駄に暑くなるだけだから、おとなしく引っ付かれておくことにした。 ラブルスと試合ということは、俺もダブルスということになる。相方である謙也さんを探すと、彼は白石部長と一緒に、ベンチに座る桜井先輩と何やら話してるところだった。心なしか、桜井先輩の顔色が悪い。「未玖ちゃん、また具合悪いらしいで」俺の気持ちを知ってか知らずか、金色先輩が言う。 「またかい。弱いやっちゃな」 「ユウくん! …まあ、あんまり頻繁やから、病院行けって勧めてるみたいやけど」 「……」 「さ、試合始めるでー!」 俺の隣からパッと離れて、金色先輩はコートの中へと入っていく。それを次いで一氏先輩も俺から離れていった。2人がくっついていた両腕には爽やかな風が通って、あまりの涼しさに、寒いと錯覚してしまうくらいだった。 「財前、試合やでー!」 「知ってます。足引っ張らんといてくださいね」 「なんやねん、先輩に向かって!」 「うっさいっスわ」 いつも通り謙也さんに悪態をつきながらコートの中に入る。ふと見た桜井先輩は、いつもの笑顔で白石部長と話してたから、少しだけ安心感を覚えた。 どうしようもない いつも通り試合して、いつも通り口悪く話して、いつも通り距離を開けていれば、胸騒ぎだって気のせいにできる。 |