「あ、」
「……あ」



タイミング悪い。白石部長に用事あって来ただけなんに、なんで教室入ろうとした瞬間にドア開けるねんこの人。しかもあからさまに視線逸らしよるし。いくら俺でも傷つくっちゅー話や。( アカン、謙也さんの口癖移ってもうた )

お互い気まずい空気出してても仕方ない。「部長いてはりますか」早く用事を済ませて帰ろうと、俺は本題を口にした。



「職員室やと思う。オサムちゃんとこ」
「さいですか。ほな」
「あ、待って」



ギュッと手首を掴まれる。予想外の展開にビックリして振り向いたら、どうやら本人も驚いたようで、目をぱちくりさせていた。( なんやねん、それ )俺には、この人の考えてることが全く分からない。

手とか、久しぶりに繋いだな。実際に繋がれてるのは手首だし、繋ぐという表現は結構不適切ではあるけど。( 掴むが正しい )小さい頃にはしょっちゅう繋いどったのに、まあ中学生にもなって手を繋ぐのもおかしな話か。

桜井先輩の、小さな手から伝わる熱が愛しい。じんじんと優しく広がっていく。時間にしてたった数秒のことだけど、俺には時間が止まったように、ゆっくり感じた。



「なんスか」
「あ……白石に、財前来たこと伝えとくわ」
「ああ、頼んます。…ほな」



先輩の手が離れたと同時に、自分のクラスに向かって歩きだす。先刻まで温かかったそこは、傷もないのにじんじん痛むようだった。



ぬくもりは迷子

欲しがっちゃいけない。当たり前だなんて思っちゃいけない。懐かしいだなんて思っちゃいけないんだ、絶対に。



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