部活( 美術部 )じゃないときの放課後は、生徒会の仕事をするために、生徒会室に籠もってる。うちの生徒会は会長があんなんだから、予定外の仕事がポンと入ったりして、年中無休で忙しい。それでも、みんなが部活と両立できるようにスケジュールを組んでくれる跡部くんは、自己中な俺様だけど実は結構優しい人なんじゃないかと思ってる。

今日はみんな部活あるって言ってたから、作業に更けるのはあたしだけの予定。ホントはいけないけど、飲み物でも飲みながら作業しようと買っておいたミルクティーを手に、意気揚々とドアを開けると、そこにはきちんと着こなした制服に眼鏡姿の跡部くんがいた。



「あれ、跡部くん今日部活は?」
「この書類を終わらせたら行く。それと佐々木」
「ん?」
「せめて、その手に持った飲み物を隠せ」
「あ、」



ため息混じりに言った彼の目線は、あたしのミルクティーにしっかりと注がれている。慌てて後ろに隠すと、「今日だけだからな」と呆れ顔で言われてしまった。でも、跡部くんの『今日だけ』が、今日だけじゃないことは、あたしがよく知っている。( 確か先週も言われた )やっぱり跡部くんは優しい人なんだ。

書類をめくる音と、パソコンのキーを弾く音に混じって聞こえてくる、部活動に励む音。サッカー部の掛け声とか、野球部のヒットの音とか、もちろんテニス部も。ボールが弾む音に勝って聞こえる黄色い声援は、ダントツの人気を誇る跡部くんが不在の今でも健在だった。( …あ、向日くんの名前呼ばれてる )今試合してるのかな、見たいな。無意識にソワソワしてしまう。跡部くんは一瞬だけあたしに視線を向けて、また書類をめくった。



「岳人か」
「な、なんのことでしょう」
「俺様に隠し事なんざ、百万年早い」



( バレてたか )バレてるなら隠す必要もないと思い、作業を一時中断。テニスコートがよく見える、部屋の後ろの方へと移動した。

コートの中を、楽しそうにピョンピョンと跳ね回る向日くん。人間離れしたその跳躍に、あたしはいつも見とれてしまう。いつかホントに雲より上まで跳んでいってしまいそうな彼の試合風景は、テニスを見ているというよりは、まるでサーカスを見ているような気分になるんだ。コートの中にいる向日くんは、どんな場面よりキラキラしてる。あたしは、その楽しそうな向日くんが好き。

作業が終わったのか、気付いたら跡部くんが隣にいた。ここから試合見るなら、早く部活行けばいいのにって思うけど、跡部くんとこうして過ごすのは嫌いじゃないから、あえて指摘しないことにする。



「見てるばかりで、つまらなくないのか」
「んー…今は、見てるだけが楽しい。あ、でも今日少しだけ話せたんだよ」
「ほー? 佐々木にしては、すごいじゃねーか」



時計の針は、もう5時半を過ぎてる。オレンジ色に照らされた教室で、あたしはまた、彼にひとつ恋をした。



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