ココアをもらってしまった。密かに想いを募らせてた、好きな人に。 「( どうしようどうしようどうしよう )」 「えらい真剣な顔やなあ」 どないしたん。忍足くんは首を傾げながら前の席に腰を下ろす。その手にしっかりと握られた小説は、きっと彼が好きなラブロマンス系なんだろうなあ。( そんなのばっかり読んでるから彼女できないんだよ )こんなこと、本人には絶対言えないけど。 「もらったの、ココア」 「ふーん?」 「……向日くん、から」 名前を言ったら現実味が帯びてきて、机に顔を伏せる。コツン。予想外に額が痛いけど気にしない。ココアを握る手も、伏せた顔も、空気に晒されてる耳も熱くて、きっと今のあたしはトマトみたいに真っ赤なんだろうなーと思った。 向日くん。テニス部で、忍足くんのパートナーで、いつも元気な人。人の中心にいて、ニコニコ笑ってる人。友達が多い人。テニスをしてるときは、すごく、かっこいい人。 あたしは向日くんに恋をしてて、だけど話したことは一度もなかった。向日くんも、あたしのこと知らないと思う。だから、ココアを渡されたことが不思議でたまらなくて、夢だと思ってたんだ。( 現実、なんだよなあ… )改めてココアを見る。ちゃんと目の前に存在してて、それがすごく嬉しく思った。 「岳人…なあ」 「どうしよう、あたし飲めないよ」 「いや、それはアカンやろ」 にやける頬が止まらない。夢みたいな、あの一瞬のことを思い出すだけで、どんなことでも頑張れる気がした。 |