神様って不公平。そう言って頬を膨らませる名字の視線の先には、かわいらしい彼女に微笑みをもらって顔を赤くする謙也の姿があった。謙也に彼女ができたのはつい昨日のこと。名字は別に謙也のことを好きだったわけじゃないはずなんだけど、( 不公平って… )どちらかに感じてる劣等感を俺は感じ取ることはできなくて、とりあえず どないしたん? って聞いてあげることにした。そしたら名字は机からガバッと起き上がる( うわ!? )



「ねえ、何で?」
「だから何が」
「何で馬鹿で走ることしか脳がない忍足にはかわいい彼女ができて、忍足より断然いい子で純粋なあたしにはかっこいい彼氏ができないの? 神様ってホント不公平や」
「…そーやなあ、」



自分のこと、自分でええ子で純粋やなんて言えるんや。( 阿呆だこの子 )

まあ確かに名字はええ子で純粋やねんけど。それはいつも一緒にいる俺が一番よく知ってると思う。未だに頬を膨らませて、終いには謙也を睨み始めた名字が無性に愛しく思えたから、漆黒のキラキラ輝く髪を優しく撫でた。

恋に憧れるのは年齢特有の感情なんだと思う。俺だって彼女ほしいし、デートとかしてみたい。それ以前に名字のことが好きだから、名字が俺の彼女になってくれないと意味がないんだけど。毎日メールして、休み時間は決まって名字の前の席に座って、俺的には精一杯アピールしてるつもりなのに、この鈍感娘は全く気付いてくれそうにない。頭を撫でながらため息つくと、「白石も彼女ほしいの?」なんて目を輝かせながら聞いてくるもんだから、思わず笑ってしまった。



「うん、ほしい」
「変なの、白石ならすぐ彼女できそうやん」
「なあ。せやから、名字が彼女になってや」
「…はい?」



ニコニコ笑う俺とは対象的に、名字の顔は林檎みたいに真っ赤。そんなところもかわいいって思えるから、多分俺って相当好きなんやろうなあ。金魚みたいに口をパクパクさせてる名字の頬に左手を滑らせれば、彼女の細い肩がビクッと強張った。



「な、何!」
「名字も彼氏ほしいんやろ? ほら、目の前におるやん、かっこいい彼氏」
「…白石なんか死ねばええねん」



そう言いながらも俺の左手に小さな手を重ねる名字に、俺はまた一つ笑顔を転がせた。




小春日和に恋をした
俺だけの、愛しいあの子






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