忙しいのは知ってる。跡部財閥の跡取りなんだもん、いろんな事業をこなしていかなきゃいけないの。忙しい彼に一生ついていくと決めたんだから、泣いてワガママなんか言っちゃダメ。毎日くれる電話だけでも贅沢だと思わなくちゃ。 だから、『会いたいか?』って聞かれても、あたしは笑いながら『大丈夫だよ』って返すの。 『遅くなった』 「いいよ、気にしないで。お疲れさま」 『ああ』 バタン。ドアを閉める音がする。( 今帰ってきたのかな )時刻は夜の11時半過ぎ。景吾の声からも、相当疲れてることが分かる。最近は新しい事業も任されたとかで、景吾の毎日は他の誰より忙しい。カレンダーにデートの印が付いてないことが当たり前だった。 毎日会えることが当たり前だった中学生、将来を意識し始めた高校生、住む世界の違いを感じた大学生、会えない日が続く社会人。それでも離れることなく想い続けてくれるから、あたしも彼の気持ちに応えなきゃと思うわけで。 他愛もない会話のあとに続いた、『会いたいか?』という、いつもの質問。疲れ果てた声で尋ねる彼に、思わず苦笑いをこぼしてしまった。 「大丈夫だよ。景吾、もう疲れたでしょ? 早く寝ないと風邪引いちゃうよ」 『そうだな…。でも、そうはいかなくてな』 ピンポーン。深夜にも関わらず鳴らされたインターホン、同じ音が携帯からも聞こえて、( え、まさか… )握った携帯はそのままに、玄関へと足を急ぐ。鍵を開けて勢い良く開いたそこには、スーツ姿の彼がいた。 「え、なんで…」 「…もう、俺様が限界だ」 ふわっと景吾の匂いに包まれる。久しぶりの貴方の温もりに、心の奥が満たされていくのを感じた。 甘くとろけて紡ぐ 隣が暖かい幸せ |