サボテンも水を待っている

料理のサーブにはあんなに時間差があったのに、優多がガツガツとかっこんだからか、二人が食べ終わるのは同時だった。店員に皿を下げて貰い(オムライスを持って来たのと同じ店員だったので優多は愛想良くしておいた)、狭い卓の上にテキストとノートを広げる。
「植物も女も一緒かもな」
テスト範囲のページに付箋を貼りながら、優多はふと呟いた。
「ちょっと水やるの忘れたら簡単にだめになっちゃうんだよ。面倒くせぇけど気に掛けてやんないと。そういうのまめにできるやつがモテんだよな」
「…優多はできんの」
「できねーから続かねぇんだよ」
慧は「だろうな」と笑った。
たっぷり3時間ほどファミレスに居座って勉強をしてから、二人は店を出た。
いつも大学の最寄り駅近くのファミレスを利用するので、駅に入ったら帰路は分かれて、互いに反対方面の電車に乗る。実家に近い所にアパートを借りている慧は通学に1時間くらいかかるらしい。優多はたった二駅だ。
改札を抜けたところで揃って立ち止まり、頭上の運行案内板を見上げると、優多が乗る方面の電車は折り悪く通り過ぎたばかりのようだが、慧が乗る電車はあと1分で到着するというタイミングだった。しかも急行だ、何としても乗りたいところだろう。じゃあな、といつも通りの挨拶を口にしようとした瞬間、
「俺は逆だよ」
ぽつりと慧が呟いた。今更乗る方面の話をしているのかと優多はきょとんとしたが、少し眠そうな顔で続けた慧は、どうやら数時間前の話題を蒸し返していた。
「水をやり過ぎちゃうんだ」
視線は運行案内板を見つめている。
「愛情をな、掛け過ぎちゃうタチなんだ。1人を大切にしすぎてダメにしちゃう。いつもそうだよ。手加減ができない。だから他人が世話してる植物をただ観てるくらいがちょうどいい」
「…………」
「お前は早く彼女を作れ」
「…………」
くぐもった走行音と共に、足元を微かな振動が走り抜けて行く。慧が見つめる先に表示される蛍光色の文字は恐らく、急行電車が行った事を知らせている。
優多は暫く無言で慧の横顔を眺めていてから、手を伸ばし、ぐしゃぐしゃと頭を撫でた。慧は斜め上を見つめたまま微動だにしない。手をどけると、女子が羨む程癖の無い直毛の黒髪が、歪な乱れ方をしたまま残った。
「今日、泊まってけよ」
優多は言ってみた。それから付け加える。
「シソ、俺の家で育てよう」
泊まってけよ、には何の反応も示さなかった慧は、視線を動かさないまま、顎を微かに引くようにして頷いた。けれど歩き出そうとはしない。何を考えているんだろう。
髪の毛を無造作に整え直してから試しにダッフルコートのポケットに突っ込まれた腕を軽く引っ張ってみると、大人しく身体の向きを変えたので、そのまま優多の利用するホームへ続く階段に二人して向かった。
「ときに慧、ふわとろオムライスは作れるのか」
先に立って階段を降りながらふと思い付いて振り返ると、慧は口許を歪めて刺々しく笑った。
「練習したよ」
それなら家の近所のホームセンターとスーパーに寄って、シソの種と卵を買って帰ることにしよう。枯らさないようにしないとな、と優多は思った。


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