ended up

 その日マーカスの執務室に呼び出されたヴィヴは、下着一枚の姿で壁際に立たされた。剥き出しの背中にちりちりと視線を感じつつ、精一杯姿勢を正して壁紙を見つめる。
 全裸にされ目隠しをされてただ放置される事もあるし、鞭で打たれることも、縛られて延々機械に犯されることもある。歯をくいしばってそれらに耐えながら、これは罰だ、と自分に言い聞かせた。貴い命を奪った者として当然の仕打ちを受けているのだ。許されようなどと思ってはいけない、この痛みと共に自らの罪を覚えていなくてはならない。
 今回はマーカスは何かを命令してくることはなく、デスクで黙々と書類に判を押す作業をしているようだった。こういう時はひたすら自分の存在の軽さが精神にのしかかる。そろりと溜息を吐いた時、室内にノックの音が鳴り響いた。ぎくりと背中が強張る。
「ヴィヴィアン、動くな。…どうぞ」
 釘を刺しておいてからマーカスは来訪客に声をかけた。ヴィヴが『罰』を与えられている間にこの部屋に第三者が入ってくるのは初めてだ。
「失礼します」
 声に聞き覚えがある、と瞬時に思い、直後に再び身体が強張った。咄嗟に顔を俯ける。
 つい先ほどまで格闘の指導を行っていた部下だった。まだ20代前半のジャスティンという青年だ。少々血の気が多いが周辺視野・動体視力と動物的な勘に優れている青年で、部下の中で一際ヴィヴに懐いている。
「…あの…、…どういったご用でしょうか」
 当然壁の方を向いて佇んでいるヴィヴの存在にはすぐ気付いただろう、声に動揺を滲ませながらジャスティンは尋ねた。マーカスは平然とした態度で答える。
「健康診断はすべてパスしているな?」
「はい、もちろんです」
「よし。お前に毒味をさせてやる。こいつを犯せ」
「―――は?」
 声を上げたのはジャスティンではなくヴィヴだった。驚愕の視線をマーカスに向ける。マーカスはひやりとした視線を返し、「動くなと言った」と淡々と述べて、立ち尽くしているジャスティンに対し台詞を続けた。
「これは最終的に長官への献上品だ。まだ未使用品でな。もしも使い物にならなくては困るからお前が確かめろ」
「…班長…何を…?」
「そういった意味で慕っているようだという情報を得ているが? 間違いだったかな、ジャスティン」
 ジャスティンが息を呑んだ。否定しないからには真実なのか――そんな対象として見られている自覚はなかったのでぞくっとした。
 マーカスはゆっくり立ち上がり、デスクの前に回り込んで黙って爪先でカーペットを叩いた。その意味を知っているヴィヴは、表情を歪めながらもそこへ膝をつく。数秒でも躊躇えば酷く叱られるので、犬のような姿勢ですぐさまマーカスの靴に唇をつけた。
 ジャスティンはどんな気持ちでこれを見ているのか。部下の前ではずっと厳しい顔を保ってきた。恨まれる事を覚悟で教育の為にきつく当たることも多い。その分これは最大限に屈辱的だった。いずれは長官への献上品になるというのも初耳だ。頭の中は混乱で収集がつかないことになっているはずなのに、革靴の滑らかな表面に舌を這わせると、ぼうっと思考が霞みはじめる。自分が立てる水音を聞いている内、いつの間にか無意識に腰を揺らし始めていた。
「キンゼイさん…」
 背後でジャスティンが囁くように名を呼んだ。
「…勃ってる」
「よく躾けてあるだろう? 時間をかけた。お前が仕上げるんだ、わかるな? これは命令だ」
 マーカスの淡々とした声が頭上から降ってくるが、もはやヴィヴはほとんどその内容を認識していなかった。靴先が口内に突き入れられ、必死にそれを食む。下着の中が既に窮屈だが解放は望まない。これは罰だ。痛いくらいがいい。
 ふいに後ろから肩を掴まれ、身体を仰向けに引っ繰り返された。馬乗りになって見下ろしてくるのはジャスティンだ。訓練ではこんな体勢を取らされる失態は犯したことがない。ヴィヴは立場上、手本を示し、常に組み敷く側でいなければならない。
 けれど今、部下のギラギラした目つきに晒されながら、確かな興奮を覚えていた。形ばかりもがいてみせるものの、既に不利な体勢にいるので簡単に抑え込まれる。
「…綺麗な身体だ。ずっと憧れてたんです」
 呟いたジャスティンが素肌に手を這わせる。荒れた掌の皮膚に擦られる感触に、ひとりでに背中が反った。生身の身体はどんなに熱いだろう。若いエネルギーはどうやって自分を壊してくれるのだろう。
「ああ、ジャスティン…やめてくれ…許してくれ――」
 その台詞が煽る結果になるだけだと自覚して囁いた。普段ならヴィヴの命令を聞けばすぐさま「イエス、サー」と呼応する部下は、今はただ喉仏を上下に動かし、どこかあどけなさの残る顔を火照らせながらゆっくりと屈みこんだ。



 ショーは長いこと続いた。精力が盛んそうな部下を選んだだけあったということだ(ヴィヴを疚しい目で見ているのは実を言うと彼だけではなかった)。抜かずの三発を実現させた男をマーカスは初めて目の当たりにした。
 床にぐったりと倒れ伏している男に、マーカスはのんびり歩み寄った。よく鍛えられた腹筋の下に靴先を差し入れて引っ繰り返すと、「う、あ」と声を上げながら抵抗もなく仰向けになった。虫か何かのようだ。浅ましい。
 虚ろな目で見上げてくる彼は全身唾液と汗と精液にまみれている。血も少し混ざっているか。カーペットのクリーニング業者はとうに手配してあるがその前に本人に掃除させた方が良さそうだ。考えながら笑みを投げかけた。
「部下の発散の役に立てて良かったな、ヴィヴィアン。生の身体は良かっただろう?」
「…ぁ…はい…」
 先程まで散々喘ぎ、悲鳴を上げ、懇願していたので当然だが、ヴィヴの声はすっかり掠れていた。マーカスはおもむろに足を持ち上げ、下腹部に革靴を載せた。じわじわと体重を掛けると言葉にならない声を上げて身体を震わせる。萎えきった性器から黄味を帯びた液体が迸り、次の瞬間には音を立てて放出が始まった。足を引き、少し離れたところに立ってじっくりとそれを眺める。良い玩具だ。長官に壊されすぎないといいが。
「あ…あっ…あ」
 羞恥の表情で微かに身を捩る優秀なエージェントに、マーカスは腕組みをしつつ「言う事があるだろう」と囁く。潤んだ青灰色の瞳がまっすぐに見上げてきた。
「ありがとうございます、サー」
 悲痛と恍惚の入り混じった声音に、マーカスは満足げに笑い、ゆったりした歩調で部屋を後にした。

2/2

[*←][ ]
[mokuji]



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -