ended up

※小スカ、軽いSM描写注意
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 食らいつきたくなるような身体だな、と思う。
 腕、胸、腹、脚、尻。元々骨太な体型の上にみっしりと筋肉が備わって盛り上がり、彼の身体を一回り大きくしている。身長が小さいから余計に肉の厚みが強調されているのがまたいい。鍛錬を怠っていないとはいえそう若くはないから多少の柔らかさはあるが、青年の硬質で尖ったそれよりも成熟した身体の方が美しいものだ。戦闘用のスーツ越しにすら見て取れるのだから、実際脱がせればさぞそそる肉体をしていることだろう。
 けれどまだ脱がせはしない。見ているだけだ。
 マーカスの指揮する情報機関特殊作戦班に新しく配属された彼は名をヴィヴィアン・キンゼイという。響きの美しい名だが、本人の顔つきは厳めしくダークブロンドが几帳面に刈り込まれていておよそ中性的な部分はない。年の頃三十後半だ。元は軍の所属だがかねてより特殊作戦班への入班を願い出ており、経験豊富な戦闘能力と卓越した記憶能力を長官が高く買い引き抜いてきた優秀なエージェント――と表向きはされている。端整でこそないが大きな目が印象的な野性味のある顔立ちをしているからさぞ女から持て囃されるだろうが、学生結婚だった妻を五年前に病気で亡くしてからは独り身を貫いているらしい。子供には恵まれていない。
 寡黙な彼は、今マーカスの執務室のデスクの正面に片膝をついて傅き、じっと次の指示を待っている。もう小一時間はそうしているだろう。デスクに広げたヴィヴに関する書類に目を通しながら、時折気まぐれに傍らに置かれたピッチャーの水をグラスになみなみと注いで勧めると、大人しく受け取って飲み下しては物言いたげな視線を向けてくる。最初の内は「どのようなご用件でしょう」と控えめに催促したり、喉は乾いていないと飲物を断っていたが、ただ黙って椅子に背を預けている上司を見て黙って従うという選択をしたようだ。良く調教された犬だ、軍人上がりだけある。
「――サー」
 書類から顔を上げてじっと視線を注ぐ先、微かに身じろぎながらヴィヴが口を開いた。
「少し…席を外しても宜しいでしょうか」
「俺が許可をすると?」
 イエスともノーとも言わず疑問形で返せば、ヴィヴは青灰色の目に動揺を過らせた。部屋を出たいのなら立ち上がってしまえば良いものを、結局「申し訳ありません」と目を伏せてじっと耐える。けれど額に、僅かに汗が滲み始めている。優秀すぎるのも考えものだ。
「賢い君のことだ、用件は解っていると思うが」
 視線を外さぬままマーカスは囁いた。
「軍を辞めるつもりだったそうだな。治安維持部は居心地が悪かったか」
「そのような訳では…。理由はお聞き及びかと思いますが」
「市内で強盗犯を射殺しようとして犯人の盾にされた浮浪児を誤射した」なんでもない口調で事実を反芻しただけだが、ヴィヴは瞬時に青褪めた。「しかし結局犯人を捕縛したことで帳消しになった筈だ。始末書くらいは書いただろうが現棒処分などはなかっただろう」
「――処分して頂いた方が良かったのです」
 薄い唇を噛み、絞り出すようにヴィヴは答えた。
「どうして? きみの評判はこちらへ移る話が出る前からよく聞いていた。公明正大で正義感が強く能力バランスの良い中堅だ。上からの信頼は厚く、下からは慕われる。キャリアも順調に積んで将来は安泰だったろう」
「亡くなったジェムという少年は…友人でした」
 もぞりと姿勢を正すような動きをして言う。額にはますます汗が滲み、一筋つるりと滑り落ちて顎からカーペットへと滴った。毛足の長いやたらにふわふわしたカーペットだ。マーカスの趣味ではないが替えるのも面倒だしなまじ高級な品物なので、前任者が使っていたものをそのまま使っている。
 くだんの浮浪児とは市内のパトロールで顔を合わせるたびに挨拶を交わしたりちょっとした差し入れをする仲だったと彼が上に提出した報告書で読んだ。ジェムに限らず彼は市民に顔見知りが多い。そのコミュニケーション能力や善良さも含めて優秀な人員であり、それゆえに処罰を受けるでもなく赦され、国の仕事から離れたいという意向を軍と繋がっている特殊作戦班の長官が説き伏せて引き抜くという体を取った訳だが、当の本人はその寛大な処置によってますます苦しんでいるようだ。
 組んだ手に顎を乗せ、続きを促すように黙っていると、ヴィヴはそろそろと再度口を開いた。
「誰に己を責めるなと命じられても、私は自分を責めずにはいられません。許されるのであれば銃を持たねばならない職からは永遠に離れたかったのです」
「きみは実際有能だ。国の為の職から退くのは多いなる損失だと誰もが思うだろう」
「…ありがとうございます。気持ちを切り替え国の為に勤める事で贖うのが最善だと頭では解っているのですが」
「罰が足りないか?」
 マーカスがゆっくり席から立ち上がると、ヴィヴの浮き出た喉仏がごくりと上下に動いた。立ち上がろうとしたのが脚の筋肉がぐっと盛り上がったが、結局その場に膝をついたまま動かない。歩み寄りながらデスクの右手の壁を振り仰ぎ、アンティーク調の壁時計(これも前任者の趣味)を確認した。部屋に呼び立て、中央に片膝をつかせて「そのまま動くな」と命じてからもう一時間半が経っている。その脇にしゃがみこんだ。
 きちんと伸びた背筋、角度や脇の締め方を意識して曲げられた関節、濃紺の戦闘スーツが逞しい身体のラインにぴったりと沿っている。その気になれば五十を過ぎ現場から退いているマーカスのことなど簡単に捻じ伏せられるだろう。歯を食いしばったのかヴィヴのこめかみが動き、腰が僅かに引けた。近くで見ると玉の汗がいくつも浮いているのが見て取れる。
「きみは命令を聞ける良い部下だ。そうだな?」
「…はい、サー」
「そう、いい子だ。いい子には望むものを与えてやるにやぶさかではない」
 穏やかな口調で囁けば、ブルーグレイの目がぎこちなくこちらの表情を窺った。
「…席を…一旦外してはいけないでしょうか」
「それは駄目だな。まだ話は終わっていない」
「申し訳ありません、手洗いに行かせてください。お願いします」
「許可しない。きみは私たちの犬になったんだ」
 必死の形相で告げられた申し出をあっさりと退けてやると、きゅっと額に皺が寄った。限界は近いか。その耳に唇を近づけ、息を吹き込むようにして告げる。
「俺たちに従い、全てを晒せ。それがお前に与えられる罰だ、ヴィヴィアン」
「…行かせてください…」
 please、please、と繰り返しながら、ヴィヴはとうとう俯き背を丸めた。頼りない子供のように小さく縮こまり股間を手で押さえる。小さく震える背中に手を添え、マーカスは嗤った。
「さあ、恥ずかしい姿を見せてみろ」
「――ぁ」
 消え入りそうな声を漏らすと同時、その指の隙間から、じわりと液体が滲み出した。
 始めはぽたぽたと滴るだけだったそれは、一度堰を切ると勢いを増し、みるみるカーペットの上に水溜りを作った。もはや手で押さえている意味などなかった。水ばかりを飲ませたので色はほとんどついていないが、アンモニア臭が部屋にこもりだす。中年に差し掛かった凜としたこのエージェントは人前で失禁などしたことがないだろう。そのままカーペットに沈み込みそうな頭を掴んで無理矢理顔を上げさせると、絶望的な眼差しがマーカスの顔の上で焦点を結んだ。下半身は限界まで溜め込まれた尿を絶え間なく垂れ流し続けている。
「…すみません。申し訳ありません…」
 なすすべなく最後の一滴を出し尽くすまで、ヴィヴは声を震わせながら詫び続けた。マーカスは飽きるまでその姿を眺めておいてから、掴んでいた頭を突き放して立ち上がった。
「掃除しておけ」
 冷たく言い捨てて執務室を出る。罰はまだ、始まったばかりだ。

 善良なエージェントは、そうしなければならないと自分に言い聞かせている様子で唯々諾々と『罰』を受け入れた。
 マーカスは多忙な彼の訓練や任務の合間には必ず執務室に来るよう命じ、少しずつ新しい事を教え込んでいった。
 例えば今。先ほどまで後輩を落ち着いたトーンで叱っていたその口に、ディルドを咥えこんでいる。手は背中に回させて拘束してあり、太いそれを口いっぱいに頬張っているために飲みこめない唾液が時折、自身の膝の上にぽたぽたと滴る。
「ん…う」
 反射的に舌で押し出すたびに奥まで突っ込み直していたら諦めたのか慣れたのか吐き出そうとはしなくなったが、やはり苦しいらしく涙目で口内を犯されている。一度もっと細い物を奥まで入れ過ぎて嘔吐させてしまったのでこちら側も気を付けねばなるまい。時折革靴の爪先で気まぐれに股間を踏むと喉の奥でくぐもった悲鳴を上げるが、しっかり反応しているのだから滑稽だ。
 始めの内こそ絶望と屈辱と恐怖しかなかった表情に僅かずつ喜悦が滲み出るようになるまでは早かった。元々の気質がマゾヒストだった訳ではないだろう。虐げられることに安堵し存在意義を見出しているのだ。酷くすればするほど、彼は悦ぶ。それと同時に、罰であるはずの行為から快楽を得てはいけないともがく。
「――そろそろ訓練の休憩時間は終わりか?」
 ディルドを無雑作に引き抜いて尋ねると、糸を引いた唾液を手の甲で拭いながら「…はい」と掠れた声でヴィヴは答えた。
「ズボンを下ろせ。こちらに尻を向けろ」
 命令には迅速に従う。つまらない躊躇いや恥じらいなど鞭で打ってとっくに捨てさせた。肌に残ったままの傷跡を指先で撫で上げてから、自身に濡らさせた玩具(玩具と呼ぶには少々醜悪だろうか)を仕込むと、任務で苦痛には慣れているはずの男は声にならない小さな悲鳴を上げた。ゆるんで楽に受け入れるようにならぬよう、咥えこませる間隔には気を遣っている。
 目一杯円を広げているその縁を指先でなぞり、小指の先を差し込むと、「うぅ」とくぐもった呻きが漏れる。
「痛いか?」
「は…はい」
「何か言う事は?」
「ありがとうございます、サー」
「優秀なエージェントだ、これくらいで訓練に支障が出るはずはないな?」
「はい」
「よし。行け」
 解放してやると、大人しく着衣を整え、姿勢を正してきびきびした動きで部屋を去る。ズボンの生地は厚く、尻ポケットが大きいので、布の内側で何が起きているかは外見ではわからない。しかし表情は――精一杯平静を装ってはいるが、目はとろんと半ば違う世界に飛んでいた。訓練を終えて戻ってくる時には良い頃合いだろう。
 煙草に火を点けた時、机の上の携帯が鳴った。機関の長官殿だ。タイミングが良いなと思いつつ着信をとる。
『彼はどうだね』
 長官は六十を超えた白髪の好々爺然とした男だ。尋ねてくる声には穏やかな笑みが滲んでいる。
「非常に面白いです。長官は相変わらず良い拾い物をなさる」
『今回はたまたまだよ。上玉が自分から転がり込んできた』
「確かにあれは滅多に手に入るものではないですね。脅す必要がないのも非常に楽です」
『仕上がりを楽しみにしているよ』
 ええ、とにこやかに応じて電話を切ってから、支給品の携帯に向かって「下衆が」と囁きかけた。
 マーカスが嬲り、躾け、堕とした完成品で長官が遊ぶ。めぼしい部下の弱みを握っては繰り返されてきたちょっとした娯楽だ。マーカスは屈強で気高い男が浅ましい姿を晒すようになる過程を好むのであって肉体には直接興味はないため役割分担に不満はないが、あの腹の中のどす黒い爺に引き渡すのは毎度胸くそが悪い――胸くそが悪い分そんな男に手篭めにされる部下を見るのは興奮するのだが。この部屋に残されたカーペットや時計から見てとれるように長官は趣味が悪いが、ヴィヴに目をつけた鋭さは賞賛に値する。
 罪の意識に支えられている分、彼は簡単には堕ちないだろう。さて、どう楽しもうか。


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