ホテルは居酒屋から徒歩で10分程度の場所だったが、だるかったのでタクシーを使った。
鍵を開けてホテルの部屋に入り、ドアを閉めた瞬間、ふたりとも間髪入れずに自分の服に手をかけた。上も下も、ボタンやチャックを全部開く手間ももどかしく引き抜いて捨てるような勢いで脱ぎ、床に放りながらベッドに向かう。
青柳のとっていた部屋は眺望の良いホテルの高層階で(目的が目的なのでカーテンはさっさと閉めてしまったが)、ベッドもやけに大きかった。結婚前にこんな無駄金を遣っていいのか疑問だし付き合っていた頃にそんなサービスは一度もなかったので言いたい事はあったが、言葉にする代わりに貪るように口づけながら、大人しくベッドに押し倒された。
前戯をする余裕も必要もない。性急に全裸の脚を開かれて、まだ青柳のもので湿っているそこに指が入ってきた。唇が胸元を啄み、唾液で濡れた肌に荒い呼気を振り掛ける。
後孔は居酒屋でした時よりもゆるんでおり、指が3本入っても呼吸が詰まるような痛みはなかった。明らかな情欲を宿した青柳の目と視線を絡めあう。抽挿の刺激で前が勃ち上がると、それを捉えられて扱かれ、シーツを掴みながら「ぅうあ」と声を上げた。強請るように腰を持ち上げて、快楽の証を見せつけてやる。
青柳にもっと見られたい、触られたい。少しでも長く、惹きつけていたい。
「足開きすぎだよ、ユウ」
苦笑交じりに青柳が言う。アルコールが入ってかすかに朱の差した顔を半目で見上げながら、挑発的に唇を舐めてみせる。
「…っるせーな、今更恥じらい、求めんじゃねーよ」
「違う、俺が我慢できなくなんだろっつってんの」
「じゃあ早く入れろ」
「……燃える誘いじゃん」
青柳が手を離すと、黒原のそれは腹につくほど反り返った。「エロ」と青柳は笑い、正面から身体を重ねた。
身体が慣れてさえしまえば、挿入の快楽は圧迫感を上回る。硬度が衰える様子の無い青柳に貫かれ、か細い悲鳴を上げて黒原は悶えた。
「お前、さっ、嫁さんと、してねっ、訳?」
「明日入籍だからまだ彼女な。普段はしてるけど、お前とスるからと思って一週間我慢した。オナニーもしてない」
「…は、なにそれ」
「最後だからな、堪能したいだろ」
入り口を探るように浅く動かされ、「んンッ」と反射で声が出た。そこを弄られると黒原は弱い。一気にぐずぐずになってしまう。
自分の意思とは関係なしに、脚が小さく跳ねて腰が浮きあがった。快楽を身体の内から逃がすようにふるふると首を振るが、青柳は構わず腰の動きを速めていく。
「お前も暫くヤってないよな?」
「はぁ、ぁ、あ、あン」
「最初入れた時すげー辛そうだったし。なあ、俺と別れてから何人とヤった?」
「…また、それかよ、んッ」
「ほら。答えて」
前後の律動を止めてゆるゆると円を描くような動きに切り替えられ、無意識にむずかるような声が漏れる。焦らしてまで聞きたい内容かよ。抗議の意を込めて喰い締めてやったが、かえって青柳の形をハッキリ感じ取って自分を追いつめる羽目になった。
「ヤってねーよ、誰とも」
溜め息を吐きながらなげやりに言い捨てると、ぴた、と青柳の動きが止まった。上目で見上げるとぽかんと口を開いて黒原を見下ろしている。
「誰とも?女とも?」
「誰ともだよ。元々女とはできねーし」
「俺と別れてから1回もヤってねーの?」
「そうだっつってんだろ…おいこのタイミングでデカくすんのかよ」
「だって」
内部で感じ取った変化に目を細めると、青柳は黒原の両脚を抱え上げて前傾姿勢になり、身体の両脇に手をついた。必然的に尻を高く上げさせられ、より奥まで擦りあげられる感触に黒原は身悶えたが、そんな事にはお構いなしに青柳は興奮に潤んだ目で顔を覗き込んできた。
「ユウ」
不覚にも、囁くように呼ばれてきゅうんと反応してしまう。一度の放出では到底足りないと訴えるように反り返った中心が、だらだらと蜜を溢れさせている。青柳が唾を飲むのが、見上げた喉の動きでわかった。
「ごめん、たまんねえ…」

そこからはもうぐちゃぐちゃだった。最初は「もっと」と強請っていた声はやがて「もう許して」と懇願することしかできなくなり、最後には訳もわからず啜り泣いた。青柳も熱に浮かされたように「ごめん、ごめん」と謝りながら、抜かずに何度も犯された。
互いに何回放ったのかわからない。体力の限界を迎えて2人してベッドに倒れ伏した時には、もう会話をする余裕すら残っていなかった。
滑らかなスーツは素肌に気持ち良く、ずっと撫でていたくなる。現実に戻りたくない。
2年前、別れを切り出したのは青柳からだった。唐突に、「そろそろ遊んでられる歳でもないから」と言われた。
お前は俺とは遊びのつもりだったのか――という内心は口にせずに、黒原は唯々諾々と青柳の言葉を受け入れ関係を終わりにした。自分に対する気持ちがなくなった以上、しがみついていても仕方ないと思ったし、説得して関係を続けるほど本気の態度を見せるのはプライドが許さなかった。
それなのに、今だ自分は気持ちを絶てずにいる。自分だけが。
黒原は俯きに寝そべりながら、背中を向けて転がっている青柳に掠れた声で「オイ」と声を掛けた。が、返事がない。全身が軋むように痛む身体をなんとか起こして覗き込むと、青柳はあろうことか寝息を立てていた。
「………クソ、お前いつもそうだ」
吐き捨てた黒原の視界に、投げ出された青柳の左手が映った。
左手薬指。エンゲージリングなのかマリッジリングなのか、二つを分ける意味すら解っていないので判断はできないが、とにかく証明の指輪だ。
シンプルな銀色の細い輪は、わざとゆるめに作ってあるのかあまり指にぴったりはまってはおらず、引っ張ればするりと抜けそうだった。
手を伸ばす。
指を掴む。
その時、青柳がつけっぱなしにしていた左手首の腕時計が目に入った。付き合い始めて最初の誕生日に黒原が贈ったものだった。
針の差す時刻はとうに0時を回り、日付が変わっている。
掴んだ手指を、そのまま握りこむ。強く力を込めると、青柳が「ン」と寝ぼけた声を上げたので、すぐにゆるめた。
青柳が目を覚ます前に帰ろう。それがきっと浮気相手としてのマナーだろう。
「お幸せに」
乱れた癖っ毛に唇を寄せて、小声で囁いた。知りたくもなかったこいつの結婚記念日を、きっと自分は忘れられない。

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