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「お先に失礼します」
18時になると同時、デスクトップをシャットダウンして席を立つと、向かいの席の先輩がふと「新居くんさー」と声を掛けてきた。
「彼女できたの?」
「…はい?」
「いや、最近いそいそと帰って行くし、なんか充実してそうな顔してるっていうか、明るくなったっていうか」
「あはは。そんなんじゃないですよ」
声を上げて笑うと、先輩は少し驚いたような顔をしていた。俺は改めて「お疲れ様でした」と挨拶して踵を返す。家に着くまでの時間がもどかしい。
彼女なんかじゃない。もっといいモノができたんだ。
帰宅すると俺の飼い主は夕飯を作ってくれていた。リビングに鞄を放り出し、キッチンに立つ背中に抱きつく。
「おかえり」
「仕事、疲れました」
「そうか、今日も一日頑張ったんだな。良い子だ」
囁かれて頭を撫でられると、どんな疲れも憂鬱も吹き飛ぶ。とろとろと思考がとろけて行くこの感覚を知らずに今までどうやって生きてきたんだろう。
「早くベッドに行きたいです」
ぎゅっと腕に力を込めると、「ご飯を食べてから」とご主人様は甘く笑って、宥めるためのキスをくれる。この人になら何でも捧げるし、酷いことをされたって構わないが、いつも甘やかしてくれるから、幸せすぎてどうにかなってしまいそうだ。
見えない首輪に繋がれて、跪く悦びに、俺は満たされている。
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