2


「溜まってるみたいですね…お仕事の忙しさにかまけて処理されてなかったんじゃないですか?」

 笑い含みの声で医師は言った。

「あるいは夫婦のお務めが億劫になりました?」
「……っ、そんなことまで詮索される義理は、」
「ああ、何も下世話な興味で申し上げてるんじゃないんですよ。精液は溜めると身体に悪いんです。熱っぽい、腰が重い、ということでしたので、あるいは、と思いまして」

 確かにここ二週間ほど、処理をした記憶はない。妻ともしかりだ。そもそもが性に淡白なタイプである上に、多忙ゆえ深夜に帰宅して夜ご飯を食べる暇もなくシャワーを浴びて寝て出勤という生活を繰り返していたのだからそうもなる。今日だって体調さえ支障を来たさなければやりたい仕事はたくさん残っていたのだ。

「仕事が忙しいんですよ」

 結局端的に答えると、医師はなるほどと言うように数回頷き、体温計を覗き込んだ。

「平熱が36度とのことでしたね? 微熱というところですね」
「はあ」

 そこに顔を近づけて喋られるとドギマギしてしまう。極力素っ気なく相槌を打ったところで医師が真顔で上目遣いを寄越した。

「一回出しておきましょうね」
「え、なん…ひゃッ」

 不意に尿道に刺さったままの体温計を出し入れされ、声が裏返った。医師の手はぬかりなく棹の下部もさするように刺激する。痛みと快楽が綯い交ぜになり、敏感な器官は否応無しに反応して硬くなっていく。

「あぁっ、な、なんでですか…っ」
「一度射精して症状の変化を見ますからねー。…どうしました、逃げようとなさらないでください」
「病院でこんな、あ、いやだぁ…っ」
「診察ですよ? リラックスして気持ち良くなってください」

 思わず腰を捩って逃れようとすると、笑い含みの声で医師は言う。

「ほんと、に、診察なんですか?」
「ええ。何も恥ずかしがることはありませんよ。さあ、力を抜いて」

 竿を擦っていた手が露出された俺の腹を探り、胸元まで這い上がってきた。

「鍛えてらっしゃるんですね。ジム通いかな――優等生っぽい筋肉のつき方だ」
「ん、んふぅ」
「乳首、気持ちいいですか? 」

 つままれ、押し込まれ、指の腹でぐりぐりと嬲られると、涙が滲んだ。触診をしながら「ここは痛みますか?」と訊いているような何気ない口調に、反射的に頷きながら「はい」と言いそうになり慌てて言葉だけは飲んだ。無意識に握っていたシャツに皺が寄っていて不愉快だ。くそ、いいシャツが台無しじゃないか。

「あ、う…その、体温計、やめてくれ」
「どうしてです?」
「痛いんだ、そんなとこ、物を入れるところじゃ、っ」
「そうですか? 出し入れするとぴくぴく震えて喜んでるように見えますけど――ほら」

 医師が掌を掲げて指を開いて見せた。粘性の透明な液体が細く糸を引く。自分が分泌したものだ。

「さっきから先走りがすごいですよ」
「くっ…見るな…」
「見なくてもわかりますよ、くちゅくちゅいってる」
「んっ、ちょ、あ、」

 痛みがなくなったということはない。けれど身体が興奮しているのも確かだった。無意識に腰が浮き、医師の手を求める。溢れ出た先走りのぬめりを帯びた指にこすりあげられると腹筋がわなないた。久々の刺激、久々の他人の手、がこんなにも良いとは。
 遺憾ではあるが早々に追い詰められていた。見下ろした己の腹筋が引きつったように震えるのが見て取れる。

「も、出るから、離してください」
「離したら射精できないでしょう」
「自分でしますから!」
「遠慮なさらなくて結構です」

 医師はキャスターつきの台の上からコットンを手に取り、俺の性器にあてがった。年下の男に公共の場で性欲の処理をされているという屈辱は、すぐに射精間近の切羽詰まった快楽に呑まれた。

「あぁう…もうイく、イくからぁ、体温計抜いて、」

 もはや懇願の口調になってしまった。医師はふと笑って体温計を掴む。思いっきり吐き出す快感を想像して俺は息を荒くした。と、

「ああああッ!? なんれっ、ひ、ンンン!」

 反対に深く挿し込まれ、俺は尿道を押し広げられながら絶頂に達していた。しかし異物に阻まれているため射精に勢いはなく、隙間から溢れ出るようにしてとろとろと棹を伝い落ちていく。ボルテージは上がり切っているのに解放は不完全で、終わった直後なのに腰が揺れ動いて更なる刺激を求めてしまう。医師はそんな俺の無様な姿を気に留めた風もなく、手にしたコットンで拭うと体温計を引き抜いてしげしげと観察し始めた。視線に嬲られて、ひく、ひく、と浅ましく性器が上下に振れる。

「まだ勃起してますね。やはり溜めすぎですよ」
「せんせぇ…全然、足りないです」
「今度から定期的に診察にいらしてくださいね?」

 悪戯っぽく笑った医師の頭が己の股間に重なって行く光景を陶然と眺めながら、俺は「はい」と答えていた。

[ 2/2 ]

[*←][ ]
[mokuji]



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -