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「あー、触りづれ。もう直接触っていいすか」
暫くやわやわと揉むように手を動かしていてから、溜息交じりに小椋が問う。そして答える前に下着の中に手が突っ込まれた。鈴口の先を指が掠め、咄嗟に何か、変な声が出そうになった。
「ふ、……っ」
手を口で覆い、ずるりと、直接あたたかい手に包まれる感触に耐える。
肌の質感、体温、汗をかいた掌の湿り気。刺激に敏感な器官を通じて、嫌でも認識してしまう。
「竜さん…?あれ、そろそろイキそう?」
「………ッ」
なんで解るんだそんなこと。肯定する訳にもいかず、竜は背中を丸めて、背筋をぞくんぞくんと走り抜ける電流のような刺激に耐える。
「いいよ、出して下さい」
加速した手に促され、身体が震えた。
「あぁッ」
そもそもが我慢なんてできない身体の構造だ。
走り抜けていく心地よさに、一瞬何もかも忘れて陶酔した。
しかし男の手によって吐精させられたという屈辱感に浸る暇もあらばこそ、吐き出してもなお完全に萎える気配のないそれは、すぐさまむくむくと小椋の手の中で回復し始めていた。
「…っどうなってんだよっ…」
なんというか、ここまでくると、怖い。
普通はイッた後はスッキリするものなのに、感覚は鋭敏になったまま、快楽のうねりが体中を巡り続ける。焦燥感にも似たこの昂ぶりに終わりはないのではないかとすら思えて、頭がおかしくなりそうだ。
小椋の手は当たり前のように再び動き始めた。粘液を纏ってぬるぬるとよりスムーズになった動きに、半勃ちだったものはすぐに成長した。下腹部がぐんと引きつるように痛み、それすら快楽にすり替わる。
「あァ、もう、いやだ、小椋、」
泣き声交じりで懇願するが、手を止められたところでこの苦しさが楽になる訳ではないのもわかっていた。
口先だけでしていた拒否すらすぐにできなくなって、今までの人生で出したことのないような声がひっきりなしにこぼれおちて行く。
「竜さん、ちょ、腰揺れてる」
「ん…ぁ…」
「やめてくださいって、そういうことするの…」
知るかそんなの。本能だ。
にちゅ、ぬちゅ、といかにもな音を立てて上下する手に呼応するように半ば無意識で腰を揺らしていると、腰の下あたりに当たるものがあることに気付いた。
驚いて咄嗟に首をひねり振り向くと、顔を赤くした小椋と目が合った。
「…小椋…勃っ…?」
「そりゃ勃つでしょ、こんなことしてんだから」
ふいと目を逸らしてぶすりとした口調で小椋は答え、もぞもぞとポジションを正すように腰を動かした。
「そういう誘うような動きしてると俺も本気になっちゃいますよ?」
「誘っ……!?……てる訳じゃねえよ!」
「わかってます。冗談です」
笑えねえ。ていうか本気ってなんだ。ただでさえ悶えさせられてるのにこれ以上の本気って。
「竜さん、こっちも触っていい?」
扱く動きは止めないまま、半端にずりさがったスウェットの尻の方に左手が侵入した。尻なんか撫でられても、と思いつつ「はぁ…」と生返事をすると、
想定外の奥まった部分に指が触れた。
「ヒッ」
指先で軽くノックされただけで全身が竦み上がった。
「それはお前、違うんじゃねえ!?」
「ここ使ったことないです?前立腺マッサージとか、風俗のお姉チャンにやってもらったことない?結構気持ちいいですよ」
「ゆっび、入れんな、ぁ」
喋りながらしれっと人差し指と思しき指先が肉を割る。体内に異物が入ってくるという未知の感覚に、意外に痛みらしい痛みが伴わない事にぞっとした。
お触り禁止の健全なキャバクラなら会社の若いのを連れて行くこともあるが、生憎ソープには行かないのでそこは指ですら未通だ。どうやら小椋が唾液で濡らしたらしい指は慣れたように動き、いつの間にか三本に増えていた。
うわ、うわうわうわ。
性的な快感にまでは至らないが、漠然と『気持ちいい』のはわかる。少なくとも嫌な感覚ではない。どちらかという凝った肩を揉まれている時のようなじんわりとした気持ち良さ――などと悠長に考えていられたのはそこまでだった。
「ほら…結構ヨくなってきた?」
囁いた小椋の指がある一点を擦った時、自分でもどこの筋肉が反応したのかわからないが、身体全体がびくんと跳ねた。
「ちょっ、待っ、ちょっ」
反射的に後ろ手に小椋の手を掴んでいた。
「そこさわっ、やっ、あぁ!」
「はは、すげー感度良い」
ぐりぐりと遠慮なく刺激されて、視界が何度もホワイトアウトしかける。
閉じる暇のなくなった口の端から涎が垂れ続ける。もはや何もかもがどうでもよかった。男同士だとか年下だとかどこに指を突っ込まれてるとか。ただひたすらこの快楽を追い掛けて貪っていたい。
「竜さんごめん…ここまでする気、なかったんだけど」
熱のこもった小椋の声に辛うじて首を回し後ろを見ると、自分の前についているのと同じ物が、指を抜き去られたばかりの場所に宛がわれるのが見えた。見事な完全体で。
「お前さ…」
息絶え絶えになりつつ竜は言う。
「経験者だよな…」
「うん。俺、元々こっちだから」
ほわんとした笑顔で小椋は肯定した。割と衝撃のカミングアウトではあるがこの状況では驚くこともない。
曰く、小椋はもっぱら出会い系で知り合った男を相手にして性欲を解消しており、あの媚薬もどきもそういった相手から貰った物だという。
「でも竜さんをソウいう目で見たことはなかったですよ。今はすげーそそられてるけど」
「嬉しくねえしい、て、え、よッ」
押し入ってきたものの圧迫感に、喋りながら後半吐きそうになった。当然といえば当然だが指よりも遥かに太いそれは、本来出口である部分を限界まで広げながら体内に侵入してくる。
この身体で生きて来て40余年になるが、ここまで味わったことのない感覚が残っていたのか。痛みと息苦しさと異物感と、なんともいえない、じわじわと湧いてくるような、気持ち良さ。
「も、お前、殺す、」
シーツを握りしめながら竜は呪詛の言葉を吐く。
「絶対殺す…」
ひくっひくっと竿を揺らしながら言っても説得力がないのは自分で解っていた。そもそも拒否する気なんてもはやない。
「竜さん痛い?」
「はっ……たりめえだろ…」
「ごめん、大きいよね」
「さりげなく自慢してんじゃねえよ…っ」
俯瞰して見たら自分たち二人の画はとんでもないことになっているだろう。だが、竜には繋がっているという実感はあまりない。後ろの熱さばかりが感覚の中で際立っていて、まるで肉体なんてなくなったのかようだ。
「あー、竜さん…すげーかわい」
じわじわと動き出した小椋の腰の動きが、叩きこむような激しい動きに変わるまでに時間はかからなかった。
「あっ、んっ、あぁ、やっ」
「気持ちいいって言ってよ竜さん」
「…っちいい、…気持ちいいっ」
考える前に口走っていた。ぎゅっとつぶった瞼の裏から涙が滲んでくる。
「ほんと?俺の突っ込まれて気持ちいいんだ?」
「、殺すッ」
「怖くないよ竜さん。もっとおっきくなっちゃいそうだからやめて」
「あっ、無理、無理だからな!」
「うん…」
ハッ、と小倉が吐息する。それが妙にやらしくて下半身にキた。
出し入れながら前を掴まれ、忙しないリズムで扱かれる。気付いたらその小倉の手に手を重ね、自分を追い詰めていた。
もう前後もわからないようなぐちゃぐちゃの意識が、端から徐々に白く染まって行く。
「あっ、出、る、ァあ、また出る、ぅッ」
「俺も、竜さん」
目の前が真っ白になると同時に、びくっと身体が震えた。
天国だった。
あの媚薬もどきがどれだけ影響しているのかは解らないが、後ろを抉られながらする射精は、とにかく気持ち良かった。
半ば意識の飛んだ状態で目を閉じて浮遊感に浸っていると、小椋が肩越しに顔を覗き込んで来た。その動きで中が擦れ、変な声を出しながら目を開ける羽目になった。
「竜さん、足りた?よかった?」
「…………」
涙でぼやけた視界の中、ニコニコと口角を引き上げている男を睨む。
「そんな涙目で睨まれても。納まりました?」
「んっあ……」
ずるりと抜き出て行く、その感触もまた堪らない。ああもうなんなんだよ、なんで生殖行為として成立しないのに男の後ろが気持ちよくなるようにできてんだよ、そんでなんで気のいい後輩を家に置いておいてやったことから自分がこんな目に、
「クソ、黙ってもっかいやれ」
考えたところで体内を渦巻く熱が引いてくれる訳ではなかった。
「了解。次は正面でしましょうか」
身体を反転させられて、もう抗う気も起こらずに、年下の男の背に手を回す自分がいた。

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