誕生日(静雄)

「……ちっ」

そう舌打ちをし、今日何度目か分からない溜め息をついた。
目線の先には、カレンダーの表示された携帯電話。日付は1月28日だった。

苛立ちを抑えるため、煙草を一つ取り出し、火を付けた。思いっ切り吸い込んで煙を吐き出す。口から出た煙は一目散に上へと目指して、そして消える。冷たい風が頬を掠めた。
何故、こんなにも苛ついているのかと言うと、ほんのちょっとした事だ。些細な事だけれど、気に掛かり胸につっかえたわだかまりが取れない気がして落ち着かないのだ。

1月28日、今日は、俺の誕生日だ。
朝、会社に行くとクラッカーを鳴らして出迎えてくれた社員たち。
ヴァローナとトムさんから有名なケーキ屋の甘いプリンを貰った。
大きい花束と、温かい言葉。俺は涙がこぼれそうになるのを必死でこらえた。
みんなからは、目が赤いぞとからかわれたがそれすら嬉しく感じてただありがとうございます、と繰り返すだけだった。

今まで、出会ってきた色々な人に怪物だの喧嘩人形だね恐れられて避けられてきた俺が、何時の間にかこんな風に普通に接してくれて、落ち込んだら励ましてくれて、良いことがあったら一緒に喜びあって、誕生日にはこうやってお祝いしてくれる。
神様は普段信じないけど今日くらいは礼を言ってやっても良い。ありがとう、と口の中で呟いた。

だけど、こうして日が沈んでもあいつから連絡が来ない事に、苛立ちを覚える。
トムさんの誕生日なんかは、いつもうちのシズちゃんがお世話になっています。なんてメッセージを付けてめちゃくちゃ高い酒を送っていたのに。つか、うちのってなんだ。

俺と臨也は所謂、恋人という関係でだから、誕生日くらいメールの一つくらいでも無いのか、と少し期待し始めた午後だったがその思いも今は大分薄れてきている。
…まぁ、臨也にとっちゃ、俺の誕生日くらいどうでも良いことなのかもな。そう思って、また携帯を開いて、何の通知も無いことに少し憂鬱になりつつ閉じてポケットにしまった。あと残り、今日はお祝いまでしてくれたんだ。いつも以上に精一杯頑張らないとな。





あれから、仕事が終わり飲みに誘われたが家に臨也が居るかもしれない、と少しの期待を背負って丁重に断った。けれど、家に入るとシンとしてて、外とはまた違った寒さが身を冷やした。
今日くらいは、と普段こたつだけで付けない暖房を付けた。
徐々に暖まっていく部屋に少し安堵して簡単に料理を作り始める。仕事場の人から貰ったケーキとかもある。今日はちょっぱり豪華な食事になりそうだな、と料理を作りながら思った。


出来上がった料理とケーキを食って、テレビを見ていた。その間にも何回も通知が無いか確認して、何の通知もない待ち受けを見て溜め息をつく、と繰り返している。

「普通、恋人ならおめでとうのメールくらいくれねぇのか…?」

自分は、今日は夜は臨也と一緒にいるつもりだったのに連絡が一つも来ないし、だからと言って自分から連絡するのも何だか落ち着かない。

「もう、12時か…、そろそろ風呂入って寝るか」
立ち上がって、風呂場へ向かおうとする。



その時、インターホンが鳴った。


「……?」

臨也か?と思いつつ玄関の扉を開ける。

「シ、ズちゃん……っ、ハッピー、バースデー…!!」

「い、ざや」

「ちょっ、今何時!?」

「え、あー…。11時59分」

「あ…や、やったー!」

もの凄い形相で、時間を聞いたかと思えば途端に涙目になって喜び始めた。正直、こんなにも喜んでる臨也を見るのは初めてかもしれない。それくらい、両手を上げて喜んでいるのだった。

「…あ、寒いだろ。入れよ」

「ん? あ、そうだね。お邪魔します」

そう言って、臨也は中へと入っていった。
…なんだ、この雰囲気は。


「っ、それより!!」

急に振り返ったかと思えば、叫ぶ臨也。

「お誕生日おめでとう! シズちゃん!」

「え……?」

「ごめんね、遅くなって。でもギリギリ間に合ったから許して」

「え、あぁ…うん…?」

「これ、プリン。作ってみたから、食べて」
「まじか!?」

「おわっ、…うん!」

そう言って、まだ鼻が少し赤い臨也が少し恥ずかしそうに微笑んだ。何だこいつ。

「…ありがとな、臨也」

そう言って、頬に軽くキスをした。
今日くらいは、良いだろう。といっても、もう12時過ぎたが。

「どういたしましてっ」

その時の臨也の顔はまさに天使で、俺は臨也を抱きかかえベッドに向かったの言うまでもない。







………、やった! 出来た!! 出来たよ波江! ってあれ、もう帰ったのか。そいえば、大分前に帰るって言っていたような言ってなかったような……。あんな、呆れた目をして俺を馬鹿にしてたのか? つくづく雇われている身なのに、頭が高いなぁほんと……。それはともかく! ついにっ、やっと俺の納得するプリンが出来たよ! まさかプリン作るのがこんなに難しいとは…、本当に参ったよ。買っていた材料だけじゃ全然成功出来なかったし。本当なんなの、プリン。こんなにもこいつに腹立ったと思った事無いよ。ちょっと携帯いじったり目を離すだけですぐ焦げちゃうし、少しでも手を抜けばすだらけのプリンになるし。本当、ゴミ箱がプリンだらけじゃん。お蔭で朝からずっと甘ったるい匂い嗅がされて食欲すら湧かない。胸焼けする。でもこれでシズちゃんも喜ぶかな。ま、素敵で無敵の情報屋さんですから、変なプリン渡したら俺の面目丸つぶれだし何より、一番美味しいもの食べて欲しいじゃん。……、一人で何言ってるんだ俺は。ってか、今何時!? ……え、っもうこんな時間!? は、早く行かないとシズちゃんの誕生日に間に合わない! あー、もうこんな事になるんなら無理でも昨日の内から作っておくべきだった。本当についてないよ、先週からずっと仕事が立て込んでて一昨日やっと落ち着いてぐっすり寝ようと思ったら何時の間にかシズちゃんの誕生日だし。どれだけ寝てたんだよ俺。日付見た時には青ざめたよ。まさかこの俺が、恋人にちゃんとお祝いしないなんて、っていっても女なんかにこんな事する気さらさら無いけど。やっぱシズちゃんだから……、俺何言ってんだ20半ばの男が。……走らないとやばいな、もう。絶対間に合うから待っててよ、シズちゃん。





静雄、誕生日おめでとう!
この話書いてて思った事。臨也はもっと計画性あるよね。 ドジっこって事で見逃して下さい。





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