◎二人乗り
「さーいしょはグー!」
臨也が、声を上げる。
俺は精一杯集中し、自分の決めた手を出した。
「やったー! 俺の勝ち!」
飛び跳ね、喜びを噛み締める臨也。
ちなみに、俺はグーを出した。
眉間に皺を寄せ、臨也を見つめると少し頬を赤らめ、
「ま、負けは負けだからね!」
と行って歩き出した。
着いた先は、駐輪場で俺は渋々と自転車を取ってくる。
臨也は鼻歌でも歌い出しそうな上機嫌さで携帯を弄っていた。
そりゃ毎日毎日ジャンケンに勝てたら、
気分も良くなる事だろう。
そして今日も俺は自転車の荷台に臨也を乗せて家へと帰る、それが俺らの日常。
特に珍しい事でもないし、ドキドキしないと言えばそれは少しは嘘になるだろうけどこの時間は、1日の中で一番好きかもしれない。この時の臨也は、多少腹立たしい事を言う事もあるが大抵は大人しくじっとしている。それが凄く平和で平穏で、これこそ俺の望んでいた生活だ。
たった、学校から家までの20分程度の短い時間が更に短く感じられる。
「ほらほら、早くー」
荷台に座り、足を上下にバタバタさせる。
俺は、ペダルを踏み自転車を進ませる。最初はゆっくりフラフラと進んでいた自転車も安定し、速く走り出す。
いつも俺が、前を漕いでいる。
少しは不満もあるが、「運も実力のうち」と言う臨也に何も言い出せなくなる。
臨也とのジャンケンに勝ったのはたったの一回で、その時は漕ぎ出した瞬間に自転車が倒れて結局俺が前になっていた。あの時の臨也の落ち込んだ姿は笑えた。…しばらく口きいてもらえなかったが。
そういえば、
こんな事をするようになったのはいつからだろう。
ふとそんな考えが頭ん過ぎった。
確か、
「そいえばさシズちゃん」
考えを始める前に後ろからの声がそれを制した。
「何だ?」
「何で、2人乗りし始めたんだろうね」
「…………」
無言になる俺に臨也は、手をかざし風を気持ちよさそうに仰ぐ。それを横目で見ていた俺はまるで絵のようだな、なんて考えまた前を向いた。
「覚えてる?」
「…まぁ、」
言葉を濁す、あまり思い出したくない事だ。
「あの時さー、シズちゃんが……」
急に、話し出した臨也。俺は何も言わず聞き流す。遠く遠くにある夕焼けが眩しくて目を細めた。
「ちょっと聞いてる?」
少し機嫌を下降させた様な声色で俺の服の裾を掴む。
「聞いてる」
「…ふーん、なら良いけど」
そう呟いて無言になる。
話を続けないのか、と思ったが何も言わずペダルを漕ぐ。
「…いつまでもこんな時が続くと良いな」
そう、ポツリと呟いてみれば臨也が
「な、にを言って」
バランスを崩して横に揺らぎ、
俺の視界は傾いて
気付いたら、カラカラと鳴る車輪が目の前にあった。
「いったーっ!」
臨也が、頭を抑えてゆっくり起き上がる。
その顔は苦痛に歪められている。
「ごめん、俺がちゃんとしなかったから」
「…別に」
素直に謝ってみると、ポツリと一言だけ返されてイラッと来た。
「手前っ…」
「俺も!」
唐突に叫んだ臨也に、驚き顔を見上げれば夕焼けのせいでは無い真っ赤な顔がそこにあって。
「俺も、続けば…良い、かな…」
語尾は小さくなって掠れ掠れになっていたが俺には聞き取れた。
「……っ」
腕を掴み引き寄せる。
そして、ぎゅっと抱き締めた。
「…痛い」
「…好きだ」
ぶっきらぼうにそう告げる臨也を前に俺は耳元で囁けば、更に耳が赤く染まって愛らしさが増す。
もし神様がいるなら、
何時までもこの時間が続きますように。
なんて願うのも悪くないだろう、と思った今日だった。
※青春シズイザが書きたかったのです。
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