風邪引き
















電子音が鳴り、そこに表示されている数字を見つめ一つ溜息をついた。


「38.3分……今日は休まないと」


ここ数週間、暫く仕事が立て続けにあってろくに眠っていなかったのもあるだろう。まだまだ続く残暑、遅れた夏風邪だ。
ガンガンする重たい頭をなんとか持ち上げ俺はある所に連絡した。


「……新羅、ごめん。今日は行けそうにない」


電話先は、首なしという化け物を愛する闇医者だ。
何日か前にみんなで食事会をしないか、と誘われたんだ。
この前は、誘われなかったけど今度は俺にも連絡が回って仕方無いから行ってあげるよなんて言えば新羅にめんどくさそうな表情をされてはいはいとあしらわれて。

少し不満があったが、口には出さなかった。
帝人君達も来ると聞いていていたからね。…それにシズちゃんも。


「そっか…でも臨也、楽しみにしてそうだったのに来ないなんて」


受話器から聞こえる普段より少し高めの新羅の声。俺は特に気にしてないように装って会話を交わす。


「風邪を引いてしまってね…、また今度呼んで」


「珍しいね、臨也が風邪なんて。まぁ、治らないようだったら点滴ぐらいならしてあげるからさ」


「ありがとう、じゃあ」


そう言って、通話を終える。
ソファに体を預けた。
ベッドまで行こうと思ったが、頭は痛いし吐き気はするし、動いたら倒れそうだ。仕方ないから今日はソファで休もう。

体の気だるさが眠気を一気に押し寄せ、瞼が重たくなる。
俺は残念な気持ちを溜息に交え、眠気に逆らう事なく瞼を閉じた。




池袋の喧嘩人形と、素敵で無敵な情報屋さんが恋人という誰しもが驚く関係になったのは、大分前の事だ。

今も二週間に一回はお互いの家を行き来し合っている。
今日は土曜日。二週間前にシズちゃんが俺の家に来てから今まで会ってない。

今日は、久し振りに会えるから楽しみだったのに。




目が覚めると、俺はベッドの上にいた。


「…あれ、移動したっけ」


体を起こすと、頭がガンガン締め付けられる様な痛みに襲われ眉根を寄せる。

すると、上から濡れたタオルが落ちてきた。


「!?」


こんな事した覚えの無い俺は、この家に誰か来ていると判断した。

現に、キッチンの方からグツグツ何かを煮込んでいる音が聞こえる。
新羅達なら今頃仲良くご飯食べてるだろうし、もしかして波江か…?
いつもなら速い頭の回転も、今日は調子が悪いらしい。

すると向こうから、こちらへ顔を出してきた。


「大丈夫か?」

「えっ…!?」


目の前に居たのは、今俺が会いたくて会いたくて仕方ない人だった。
だけど、嬉しさより驚きの方が多くてどうしたら良いのか分からなくなる。
シズちゃんには合鍵を渡してあるから、家に入って来る事は別に驚く事じゃないけど。


「し、新羅の所に…行かない、の?」


喋る度、頭が悲鳴を上げるが何とか持ちこたえた。
シズちゃんは眉間に皺を寄せ、


「恋人が、風邪引いてるのに暢気に飯なんか食ってる場合じゃねぇだろ」


と低く呟いた。

二週間振りに会ったのとか、
わざわざ来てくれたとか、
今の発言とか……。

色々重なって、目元が熱くなるのを感じた。

恋人。


シズちゃんの口から出たその言葉が頭の中で一杯になる。


何で、こんなにも俺をドキドキさせるんだよ。
これ以上想いが募ればどこにぶつければ良いのか分からなくなる。
あまりに、重い愛は逆に人を怖がらせる。
今まで見てきたはずだろ、なのに。


「おかゆ作ったけど…、食えるか?」


料理があまり得意じゃないのに、頑張って作ってくれて。
両手にはたくさんの、傷や火傷の痕があって痛々しい。
だけど、それが俺の為にしてくれてる、と思うと嬉しくて複雑な気持ちで。

気付くと俺の頬に涙が一つ伝っていた。


「ど、どうしたんだ!? おかゆ、嫌だったのか?」


不安げな表情で覗き込むシズちゃんに俺は頭がガンガンするのも気にせず
抱きしめた。


「ちが…違うよ…、うれし…っいの…」


そう、涙ながらに言うと静雄は臨也の肩に手を回し、


「バカだろ」


と呟いた。
俺は驚いて、手を離そうとするけど向こうが一向に離さない。
それどころか、強く強く抱きしめてくる。
そこから伝わってくるのは、色々複雑な感情もあるけれど一番多いのは、愛で。
それに、また涙腺が刺激されぽろぽろ涙が零れ落ちる。



「俺は、手前に何かあったらすぐ駆けつけるし、助けてやる。心配する事なんてねぇんだよ」



一呼吸おいて、


「絶対、手前を離したりしねぇから」


そう言った。


「…今なら、死んでもいいかも」


そう言えば、静雄は鼻で笑い、


「何言ってんだ、手前を殺すのは俺なんだからな」


と笑っていった。

この笑顔が、俺を何よりも元気にしてくれる、最良の薬だ。

また、抱きしめていた手を緩め、シズちゃんの顔を見上げてにこっと笑う。
目が細められて、目尻から涙が一粒零れ落ちた。
すると、口元を手で押さえて頬をほんのり赤く染める静雄が居た。



(例え、この手から居なくなろうとも、



絶対探し出して見つけるから。)

















※どうやら私は臨也を泣かしたいようですっ*
シズ→←←←←イザと思っていたらシズ→→→→→←←イザ
みたいな感じが好きです、矢印長いですw



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