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臨也視点












お互い無言のまま、家へと続く道を歩いて行く。


普段は五月蝿い程大きい声でお互い叫んでいるのに今はその面影がまったく無くて、それが俺にとっては緊張してしまう。


少し間は空いているけどたまに肩が触れ合ってその度、顔が熱くなるのを感じる。
シズちゃんが差している俺の傘の柄を見つめ、足元へ視線を落とした。


シズちゃんは俺より身長が高くて、その分歩幅が大きい。
だけど今は俺に合わせてくれているのか、すこしゆっくりめに歩いていて。
…そういうさり気ない心遣いが、ドキドキしちゃうんだよ。


普段、何気ない事で本気で怒って追い掛け回して来るシズちゃんとは大違いだ。


ザーザー降る雨の音や、隣をどんどん通り過ぎて行く車の音を聞きながら静雄を見上げてみると少し考えているような表情をしている。



_____昨日の事かな。




パッと直感で思い付いた。
あの単細胞が悩む事なんて中々無いだろうし、入る?なんて聞いた時には頬をほんのり赤く染め、笑える程動揺していた。目は宙をさまよいウロウロしていたしね。


何て、他人ごとの様に考えていると唐突にシズちゃんが呟いた。



「なぁ…、昨日の放課後…」



心臓がドクン、と跳ねた。
自分でも、分かるくらい顔が熱くなる。まさか、直接聞かれるとは思ってなかった。


こんな、大げさな態度取ったら、いくら鈍感なシズちゃんでも気付くだろう。いつもなら、感情を態度や顔に表さない事など雑作もない事だったのに、と自己嫌悪になる


シズちゃんの顔を見るのも何だか怖くて俯いていると___。



「ごめん、あんな事してしまって」



と、予想外の言葉が来た。


俺は思わず、シズちゃんの顔を見上げた。



「嫌だったよな、大嫌いな俺なんかにあんな事されて__。忘れてくれ」



少し悲しそうな、思い詰めているような、複雑な表情で前を見据えているシズちゃん。
だけどそれ以上に引っ掛かることがある。


___忘れてくれって、どういう事?



気付けばその疑問は口に出していた。こんな事言うつもりじゃ無かったのに。シズちゃんは、訳が分からない、と言いたいような表情をしている。



「シズちゃんにとって、俺にキスした事は忘れたい事なんだ」




そのシズちゃんの表情が、俺を苛立たせる。

昨日のは、ちょっとした間違いで、お互い無かった事にしてまたいつもみたいに殺し合い、嫌う仲で良いじゃないか。それなのに、



何でこんなに苛ついてるんだ?





いや、理由は分かってるんだ。
俺は、キスなんてされて、









僅かに喜んでいたんだ。




俺は、シズちゃんが好きなんだ。
だから、キスされた時、もしかしたらシズちゃんも___なんて浮かれて。
だから、傘を忘れたシズちゃんに入れてあげよう、なんて考えて。



だから、忘れてくれって言われて傷ついたんだ。



ぬか喜びして、馬鹿みたい。



「もう、いい」



俺は、駆け出した。
僅かに、瞳に涙を溜めて。






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