昔から、ちゃんとしなさい!とよく言われていた気がする。なんとなくいつもヘラヘラしちゃうし、いたずらだって大好きだ。もちろん誰かを故意に傷付けるようなことはしないようにしてきた。でも、愛されるヒーローになるためには、遊び心だって必要でしょう?


「てーんてーんてーんやくん、てーんやくんったらてーんやくん」
「ム、なんだい佐和くん。というかそう何度も呼ばずとも聞こえているぞ」
「さっきの授業でわかんないとこあったから教えてちょ」
「おお、勉強嫌いな君が珍しいな!もちろんいいとも!どこがわからないんだ?」
「えっとねえ」


机に広げたノートに視線を落とす彼の、無防備なほっぺたにちゅーをした。途端、いちごみたいに真っ赤になった天哉くんは眉間にしわを寄せて…次に言うことはだいたい予想できる。


「佐和くん!!!」
「うおお耳キーンってなった」
「君はどうしていつも!!公共の場で!!そういうことをするんだ!!!」
「天哉くんが好きだから?」
「…っだからと言って!TPOというのを知らないのか!!いいかい、時と場所と場合だ!!復唱!!」
「時と、場所と、場合だー」
「よし!!」


顔を赤くしたまま、満足げに頷く天哉くん。それでいいんだ、単純だなぁ。クラスのみーんな天哉くんの大声にくすくす笑ってるけど、本人がいいなら別にいっか。


「…はあ、君のせいで少し暑くなった。飲み物を買いに行くが、佐和くんにもなにか買ってこようか」
「んー、いいよ、一緒に行く」


そうやってさらっと優しいところも好きだなぁ。なんてにやにや笑ってたら、またなにか悪巧みかいと天哉くんが言うから、それは違うと抗議した。


「わたしはいたずらは好きだけど、悪巧みなんてしたことないよ。誰かを傷付けるようなヒーローはヒーローじゃないもん」
「君のそういう信念は立派だと思うぞ。さっきの言葉は撤回しよう。だが、いたずらも程々にした方がいいんじゃないか。さっきのといい…」
「だって、困った顔の天哉くんも好きなんだもん」
「…君、そう言えば俺がなんでも許すと思っていないか?」
「んー…ちょっとだけ?」


まぁ、好きなのは嘘じゃないんだけど。首を傾げて笑ってみると、天哉くんは廊下をきょろきょろと見渡してから、わたしの肩を掴んだ。


「怒った?」
「ああ」
「そっかぁ、ごめんなさい」
「…俺がいつもいつも、やられてばかりだと思わないでくれ」


そう言って、おでこにちゅーが落ちてきた。それから、そそくさと歩き出してしまった広い背中を追いかけて、回り込んで、立ち止まった彼の制服のネクタイをぐいっと引っ張った。


「そんなので満足なの?」


すぐそこまできた唇に、背伸びをしてわたしの唇を重ねたら、びっくりしたのか座り込んでしまった天哉くん。下唇をぺろっと舐めて、そんな彼を見下ろした。


「ねえ、天哉くん。いたずらって楽しいでしょ?」


顔をまたさらに赤くした彼は、口元を手で押さえながら文句ありげに、一度だけ強く頷いた。



負けるな飯田くん!

(どうしたの?嬉しそうね、泰葉ちゃん)
(んふふ。梅雨ちゃんも恋したらわかるよ)

(わっ!飯田くん顔が真っ赤だ!)
(どうせ佐和関係だろ、ほっとけほっとけ)
(上鳴くん、君!!)
(え、ナニごめん)
(俺の心が読めるのか…すごいな…!!)
(なに言ってんだこいつ)
(とりあえず大丈夫ならよかったよ)
(緑谷くんも心配ありがとう!大丈夫さ、俺は佐和くんには負けない!)
(お前ら付き合ってんじゃないの?)


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