何度も何度も求めて繋がっては果てて、その繰り返しのさらにその先、絞っても出てこないぐらい消耗した体をベッドに沈めた。のに、まだ足りないのかわたしの体に唇を充てる彼。


「(…キスマークをつけてる)」


黒い髪を撫でるとうっとおしそうにわたしの手を払って、それでも跡を残し続ける。その行為に意味があるとしたら、それが独占欲のサインであったなら、そんなことを考えると僅かに笑みが零れる。だけど。


「……?」


ニコラスは怪訝そうにわたしをみつめた。その目はさながら様子を伺っている野良猫のよう。ごつごつとした手が迫ったかと思えば、それはわたしの目を塞いで。それでやっと、自分が泣いていたことに気付いたのだ。


「…【ニコラス、苦しいの】」


一度自覚すればもう手遅れ。止めどなく流れ出るものを拭いながら手を動かした。


「【声が出ないの】」
「【知ってる】」
「【そうよね。それがわたしの代償だもの】」


わかっている。わかっているのだ、そんなこと。声が出ないことが代償だなんて、他の黄昏種よりもよっぽど恵まれているのに。なのにどうしようもなく胸が締め付けられる。


「【わたしはあなたの名前を呼ぶことができないの。けれどあなたの名前を呼びたくて仕様がないの。でもできないの、だから、】」


しゃくりあげながら一方的でめちゃくちゃになった手話をニコラスの手が止めた。はあ、と呆れたようにため息をつきながら。


「呼ばたって、うせ聞えねえ」


すました顔でそう返す。はたと涙が止まって呆然とすると、アホ面、とニコラスの手が云い、くくくと笑う。それをみて、声が出なくても自然と唇が動いた。ニコラスは一瞬体が固まったようにみえたけれど、すぐにまた無愛想な顔をして。


「【なんて言ったか、わかった?】」
「【知らねえ】」
「【嘘、だってニコラスがわからないわけないもの】」
「【もう黙れ】」


まだ話そうとした手ごと抱き締められて、心地良い彼の体温にわたしは微睡む。ああこんなにも、こんなにも。


『 ニ コ ラ ス 、 あ い し て る 』