「泰葉、泰葉」
「はい」
「それ、食いたい!」


わたしのお弁当の唐揚げを指差して、
目を輝かせながら彼はそう言った。


「はあ、いいですよ」


お弁当を木兎さんの方に傾けると、彼は大きく口を開けた。


「……?」
「はやく!くれ!」


ああ、食べさせろと。手のかかる先輩に心の中でため息をつきながらも食べさせると、木兎さんは満足そうに笑った。


「しっかし誰もいねえなー」
「こんな暑い日に屋上でご飯なんて考えるの、木兎さんくらいです」


首に垂れた汗を拭おうとハンカチを探すと、教室に忘れてきたことに気付いた。木兎さんが持ってるとも思えないし…諦めよう。すると、ドアの開く音がして二人して振り向いた。


「お、赤葦!」
「ああ、どうも。泰葉、探した」
「?  ごめん、何か約束してたっけ」


やって来たのは同じクラスの京治で、
探される理由がわからず問いかけると、今まさに欲しかったわたしのハンカチを渡された。


「机の上に置いてあったから」
「わ、助かった…ありがとう。これ、よかったら食べて」


お弁当とは別に買ってきたパンをお礼に差し出すと、京治はありがとうと言って受け取った。


「じゃあまた。木兎さんも」
「おーう!」
「ありがとうね、京治」


去り際にわたしの頭を撫でてから、京治は屋上をあとにした。

(京治に撫でられるの、久しぶり)

京治とは幼稚園の頃からの仲で、兄妹みたいな間柄であったから、小さい頃はよくされたけど高校生になってからは初めてかもしれない。ちょっと懐かしい感じがして、顔の筋肉が緩んだ。ふと見られているような気がして顔をあげると、不審そうに木兎さんがわたしを見ていた。


「…なんですか、その顔」
「泰葉、赤葦と仲いいのか?」
「まあ、幼馴染ですから」


それなりに、と答えると、木兎さんは
ぽかーんと口を開いた。


「聞いてない!」
「言ってませんし」
「…なんか嬉しそうな顔してたぞ、泰葉」


わたしと京治の関係を知らなかったようで驚いていたのに、今度は拗ねたように背中を向けた。…今日はいつにも増して感情の起伏が激しい。


「…俺といるときはあんな顔しないのに」
「そうですかね」
「俺のことは木兎さんって呼ぶのに赤葦は名前で呼ぶし…」
「…はあ、すいません?」


どんどん縮こまる大きな背中に無意識に謝ると、彼はぐるっとこちらを向いてわたしに飛びついてきた。


「うああー!!」
「ちょ、重っ」
「俺も撫でるー!!」


わしゃわしゃと両手で撫で回され、髪をぐしゃぐしゃにされ、何かを考える余裕もない。


「…うわー!やっぱり俺が撫でても泰葉は笑わないじゃねえかー!!」
「いやちょっと待ってくださいよ、っていうか本当重いっ…!」


わたしの倍近くあるであろう重い体が容赦なく雪崩れ込んできて、とうとう堪えきれなくなり地面に倒れた。


「あーもう、ぐちゃぐちゃ…」
「……」
「木兎さん、退いてくださいよ」
「ヤダ」


少し息苦しくなるくらい抱き締められて、一先ず宥めようと背中をさすると、彼は益々抱き締める力を強めた。


「木兎さん、昼休みおわっ…ん、ちょっと、」
「俺、泰葉が耳弱いの知ってる」
「じゃあ、噛まないでくださいっ、よ…」


小動物の甘噛みの如くはむはむと齧られる耳たぶ。日差しとは無関係の熱さがそこから広がって、木兎さんの制服を掴んだ。そこで、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。


「ほら木兎さん、もうおしまい」
「…まだ離れたくない」
「何乙女みたいなこと言ってるんですか、早く退いてください。教室戻れません」


力が弱まった隙に木兎さんの肩を押すと、相変わらず抱き締められたままではあったものの、体が離れて目と目が合った。


「…わたしの顔、何かついてます?」
「いや、やっぱり泰葉はかわいいなぁと」
「馬鹿ですか馬鹿ですね早く退きましょうね」


不意打ちもいいところだ。上昇する体温を悟られないよう彼の腕から逃れるため藻掻けば、再び重たい体がのしかかってきた。


「やっぱりヤダ!帰さない!!」
「はあ?勘弁してくださいよ…」


キスをせがんだ彼の顔を押し退けたら、本鈴が鳴り響いた。今から戻っても遅刻は確定。…ああ、もう。


「……もうどうでもいいや…」
「本当か!じゃあ一緒にいような!」


嬉しそうにわたしを抱き締める彼と一緒に倒れこむと、青い青い空が見えた。




(ねえロミオ、貴方の愛で溺れそうです)














▽如月様

お待たせしてしまって申し訳ありません。
リクエストをいただいた木兎さんのお話でした。いかがでしたでしょうか。

木兎さんで微裏というと、どこまでやってしまおうかなと考えに考え、少し悪戯程度にしてみたのですがご希望に添えたでしょうか。

また、年下で赤葦さんの幼馴染設定とのことでしたので、存分に設定を盛り込んでみました。

まさかあまり書けていない木兎さんのリクエストをいただけるとは思っていませんでしたので、悩みながらもとても楽しく書くことができました。ありがとうございました。少しでも楽しんでいただけたなら幸いでございます。よろしければまたいらしてくださいね。

リクエストありがとうございました。

芹沢


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