わたしだってさあ、ない知恵絞っていろいろ考えてんだよ。このお客さんは鞄小さいから袋にいれてあげよーとか、このパンあんまり売れてないけどこういう配置にしたら少しは売れるんじゃねーとか、面倒だけど片付けしといたら次のシフトの人いい気分で仕事始められるよなーとかさあ。なのに全然、みんな全っ然だめなの。まず接客へったくそ!声ちっさいし商品の扱いは雑だしレジ打ち遅いし無愛想だし。発注もなーんも考えてないの!何種類も発注したってさー、そんなにおにぎり並べらんねえよまじで。シフトに穴空いたらとりあえず電話かけてくる店長もいい加減わたしに頼るのやめろっての!みんな学生でバイトのわたしに甘えんじゃねーよ!!




「…だから京治、お酒あけて…」
「はい」


ぷしゅ、と音をたてて缶のタブを開くと、泰葉さんはありがとうと涙目になって鼻をすすりながら受けとった。ぐびっと豪快に飲んで、一つ深いため息をついた。


「頼りない女でごめんねえ…」
「いや、全然」
「どうせわたしだめなバイトですう…」


テーブルに突っ伏してううう、と喚く泰葉さん。今日もまた随分酔っ払ってらっしゃる。

泰葉さんは三つ年上で大学生の二十歳。普段はなんというか、まぁ俗に言う"いい人"。頼まれたら断れない真面目な人。心の中では不満がたくさん溜まっていて、でもそれを吐き出す場所がないからお酒をストレス解消の捌け口にしているみたいだ。こうして酔うと、最初は冒頭にあったように少し攻撃的な口調だけど、だんだんネガティブというが泣き上戸になる。


「…もうやだ、およめさんになりたい」
「なんでお嫁さんですか」
「おうちでだいすきな京治待ってたい…」


こぼれる寸前の涙を拭ってまた一杯アルコールを体に流し込んだ。明日朝早いって言ってたけど止めた方がいいんだろうか。というかそれは不意打ちです。


「おかえり、今日もおつかれさまっていってね、ただいま、いい子にしてたってきかれてね、あたまなでてもらってね、」
「よしよし」
「いまじゃないのお…」


頭を撫でてほしいのかと思って撫でると、いやいやと振り払われた。酔っ払いはよくわからないな。


「バイトやめよっかなあ…」
「泰葉さんが嫌ならそうすればいいと思います」
「…ウン…」


でも、と続けると静かに彼女は首を傾げた。


「信頼されない人になるのは簡単ですけど、信頼される人になるのはすごく難しいんじゃないですか」
「…わたし、信頼されてる…?」
「話を聞いてる限りだと」


そっかあ、と呟いて暫く俯いていたかと思うと、お酒を飲み干して缶を潰した。


「ふっかつした!あしたもがんばる!
ありがとう京治!あいしてる!」
「俺も愛してますよ。だからご褒美くださいね」
「んう?」


赤くなった顔のままへらへらと笑っている彼女を優しく抱き上げてベッドに運んだ。

酔っ払った泰葉さんは本当に大変なんですよ。キャラ変わるし声大きいし泣くし。何よりそんな無防備な格好で顔赤くしちゃって、俺が我慢するのにどれだけ苦労することか。今夜は俺が満足するまで寝るの許しませんから。










「…頭痛い…」


なんだか妙に体が重いし、腰痛いし、飲みすぎたかな…うん?


「あ、京治くんだ…え?」


なんで京治くんは裸なの?というかどうしてわたしも裸なの?なんで京治くんに抱き締められて寝てるの?というかいま何時?


「10時45分…え、う、嘘!?なんで!?ちょ、ちょっと京治くん!!」
「ん…あ、泰葉さん、おはようございます」
「あ、おはよう…じゃなくて!ちょっ遅刻!もう授業始まってる!!」


ゆっさゆっさと体を揺らすと京治くんは目をこすって目覚めた。必死に現状を伝えると、彼はあー、と長い返事して。


「もういいじゃないですか。寝ましょうよ」
「いやいやいや!!」
「泰葉さんがエロすぎて寝たの朝方なんで、眠いんですよ俺…」
「…え」
「それじゃあおやすみなさい」


わたしの額にキスを一つして、彼は布団に潜り込んだ。わ、わたしのせい?っていうか、え、エロ…?


「…な、ちょ、寝ないでよお…!!」


神様、わたしは昨日何を仕出かしてしまったのでしょうか…。





(もう絶対飲まない)
(禁酒宣言ですか)
(毎日ひとり酒して酔わないようにする)
(だめだこりゃ)


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テーマ「人外ファンタジー」
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