一年生のときからずっと気になっているクラスメイトの誕生日が今日だと知ったのはつい三日前のこと。時々話す程度の間柄なのに彼の欲しいものなんてわからないし、何よりプレゼントを用意できたとしても休日で渡せないし。渡せない、のに。


「なんで学校来ちゃったんだろ…」


バスと電車を乗り継いで、少し遠くまで出かけて買ったプレゼントを手に、わたしは土曜の学校まで来てしまった。バレー部の彼が今日も部活なのかは知らないし、運良くいたとして、実際渡せるのかと言えば。


「……絶対無理…」


緊張して渡せる気がしないのに、本当にどうして来てしまったんだろう。校門の前をうろつくこと数分、向こうの方から何人かの男の子たちの声がした。よく目を凝らすとみたことのある黒いジャージ。慌てて学校を背に走り去ろうとすると、威勢のいい聞き覚えのある声がわたしの名前を呼んだ。


「佐和じゃねーか!何してんだ?」
「…に、西谷…」


眩しいほどの笑顔に固まる体。バレー部の人たちの物珍しそうな視線も痛かったけれど、腹を括って西谷にプレゼントを差し出した。


「?」
「今日、誕生日って聞いて…あの、おめでとう。これたいしたものじゃないけど「プレゼントか!?」あ、うんそうです…」
「マジか!!」
「女子からプレゼントとは…ノヤっさん、やりおる…」
「ありがとな佐和!」
「い、いえいえ…」


渡した、渡せた。はちきれそうな鼓動を抑えて、それじゃあとその場を後にしようと、今度こそ彼らに背を向けると、体が思うように進まない。それが腕を何かに捕らえられているからと気付いて、それから。


「…な、なんですか…」
「これ渡すために待っててくれたんだろ?悪いから送ってく!」


そう言って、またきらきらの笑顔が広がった。




「でよー、そんとき相手のリベロがすごくてよ!」
「(なんでこうなったんだろ…)」


まさかこんな、こんな展開になるなんて。西谷の隣で、二人きりで歩く日がくるなんて思ってもみなかった。おまけに今日は西谷の誕生日で、特別な日。彼女でもなんでもないわたしが、こんな日に一緒にいれるなんて一生のうちの大きな幸運を注ぎ込んでしまった気がして、もうこの先しばらく不幸が続くのかもしれない、と少し憂鬱になってしまう。


「佐和?……佐和!!」
「はい!!…あ、ここまでであの、大丈夫」


せっかく送ってもらえたのに、お馬鹿なことを考えていたせいであっという間に家の近くまで来てしまった。西谷の家がどの辺りかは当然知らないけれど、さすがにご近所ではないだろうし家の目の前まで送ってもらうのは図々しいと思う。もう少し一緒にいたい気持ちを隠しつつそう言うと、西谷はそれに気付くことはなかった。


「これ、本当ありがとな!大事にする!」
「ううんそんな、全然…」
「じゃあ、また学校でな!」
「うん、ありがとうね。気をつけて」
「おう!じゃあなー!」


小さな背中を見送って一歩、二歩、三歩。頭の中で、わたしがわたしに問いかける。これでよかったの、って聞いてくる。伝えたかったこと、言えなくてもどかしかったこと。今日じゃなくてもまたいつか言えばいい、じゃあそのいつかっていつ来るの、って。もう随分遠くなった背中を、気付いたら追いかけてた。


「に、西谷!!」
「うおっ!?」


西谷の鞄を掴んで引き止めると、大きな瞳を開いて、ただ迷惑そうな顔は微塵もみせなくて。息を整えると指の先が冷たくなってきて、ぎゅっと手に力を込める。


「西谷、あの、あのねわたし、」
「おう、なんだ?」
「………西谷が好き、なんです…」


恥ずかしすぎて、顔がみれない。沈黙が続いて数秒、地面がだんだん歪んできて、あれわたし、なんで泣いてるんだろう。


「ごめん急に、あの、忘れていいから…じゃあ、」


逃げるように走り出すと、後ろから足音が微かに聞こえて、それは次第に大きくなって、何かがわたしの目の前に飛び出した。びっくりして足を止めると、とおせんぼした西谷が真面目な表情でわたしをみていて。


「…あの、にしの「好きだ」…え」
「つうか俺が言いたかったのに!!女子に言わせて俺も言うとかかっこ悪いだろ!?」
「え、あ、ごめん…」


状況が飲み込めずに勢いに押されて謝ると、西谷がわたしの顔に手を伸ばして涙を拭った。それが心地よくて、嬉しくて、でもやっぱりびっくりして、頭は混乱してしまう。


「西谷、あの、今…す、好きって聞こえたような気が」
「気がしたじゃなくて言った。今日、会いに来てくれてすげえ嬉しかったし、本当はまだ帰したくなかったし…」


みるみるうちに西谷の顔が赤くなって、それをみてわたしもどきどきして。夢をみてるみたいなのに、これが夢じゃないのだけはやけにはっきり理解してた。引っ込んでいた涙がまた流れて、驚いた顔をして慌てる西谷が、わたしは本当の本当に。


「…すき、だいすき……」


気持ちが溢れてくるみたいに涙も溢れて、自然とそんな恥ずかしいことを口にしていた。びっくりしながらはにかむ西谷につられて、わたしも泣きながら笑ってしまう。自分がこんなに西谷のことを好きだなんて、知らなかった。




「……佐和、そろそろ泣き止んでくれねえと俺がいろいろツライ…」


気付けば明るかった空はすっかり暗くなって、どれくらいの時間泣いてたんだろう。目が痛くて喉の奥もひりひりする。きっと、というか絶対不細工な顔になってるはずなのに、ずっと隣で背中をさすってくれた西谷は困ったように笑う。


「…ありがと、もう大丈夫」
「涙止まったか?」
「頑張って止めた…」
「そうか、偉い偉い!」


わたしの頭を撫でながら西谷はまた笑って、手を引いて立ち上がらせてくれた。繋がれた手がとても自然で、でも少し慣れなくて変な気分になる。それは西谷も同じなのか、握り方がぎこちなくて顔がほころぶ。


「もう遅いから、ちゃんと家の前まで送る」
「うん、ありがとう」


歩き出して数歩、急に立ち止まった西谷に合わせて足を止めると、言いにくそうに小さく口元が動いた。


「……もうちょっと、ゆっくり歩いていいか」


こういうの、以心伝心っていうのかな。こんなに気持ちって同じになるものなのかな。答えるつもりで手を強く握れば、二人の間に笑みが零れた。




Happy birthday dear Yu Nishinoya!
2015.10.10


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