駅前のカフェに入って数時間。飲み物でお腹がいっぱいになってきた頃、「駅、ついた」とだけ書かれたメールを受信した。急いで店から出ると秋風が吹いて身震いする。


「(すっかり寒くなったなぁ)」


鞄の中にいれておいたカーディガンを羽織り急ぎ足で駅まで向かう。研磨を探すも人が多くて見つからず、電話しようかと携帯を手にとると肩を叩かれた。


「…あれ、制服?ジャージじゃないんだ」
「部活で汗、かくし…寒いから」
「あ、そうなんだ」


普段は一緒に帰ったりしないから知らなかった。てっきりあの目立つ赤いジャージかと思ったのに。…なんか、思ったよりわたしって。


「……泰葉?電車、来るよ」
「…あ、うんごめん」


クラスが違って、帰る時間も違って、考えてみるとちゃんと話すのが久々でうまく言葉が出てこない。もやっとした気持ちを払うように笑うと、研磨は何も言わずに顔を背けたから、笑うのをやめた。





「次の電車、七分後かぁ。微妙に時間あるね」
「座ってよ、疲れた」
「そうだね」


はあ、とため息をつきながら座る研磨の隣に腰を下ろすと、肌寒そうに手をこすり合わせていたのに気がついた。


「寒い?」
「ちょっと」
「汗ちゃんと拭いてる?風邪ひくよ」
「…わかってるし」


いくらか普通に喋れるようになって少しほっとすると、思い出したように持っていた紙袋を研磨に差し出す。いけないいけない、このまま帰っちゃうところだった。


「何、これ」
「プレゼント。今日誕生日でしょ、研磨」


そもそも、今日研磨と帰るために待ってたのもこれを渡したくて…というより、ちょっとでも一緒にいたくて誘ったのだけど、それは気恥ずかしいから言わないでおこう。


「………ありがと」
「開ける前から微妙な反応しないでよ」
「いや、なんか、知らないと思ってたから」


ちょっとびっくりした、と続けてプレゼントを受けとる研磨の言うことは、我ながら尤もだと思う。些細なことかもしれないけど、知らないことが多くて、さっきから嫌な感じが胸の辺りをぐるぐるする。


「これ、今開けても平気?」
「…あ、帰ってからの方がいいよ。結構大きめだし」
「大きめ?」
「膝掛けだから。研磨、寒がりみたいだし家でゲームとかするとき寒いんじゃないかなって」
「…へえ、ありがと」


また意外そうな顔。仕方ないと言えば
まぁそうなんだけど、自信なくなるな。胸のもやを消すように息を吸って吐いてを繰り返すと、研磨にしては珍しく、どうしたのと尋ねてきた。


「なんか…なんだろう、不安なのかな。わたし、全然研磨のこと知らないなって思って」
「?  おれの誕生日知ってたじゃん」
「そりゃあまぁ、それくらいは」


知ってるよね、と慰めらしき研磨の言葉を苦笑いで否定すると、んー、と曖昧な返事をされる。


「でも、おれが寒いのが嫌なのも知ってた」
「…まぁ、そうだけど」


そういうことじゃないと思うんだけど、考えすぎなのかな。二人の間に沈黙が流れると、待っていた電車がそろそろやって来るアナウンスが聞こえた。


「……並ぼうか、研磨」
「うん」


やけに冷たくなった指先をカーディガンのポケットにいれようとすると、当然のように手を繋がれ引かれる。予想外の出来事に足が止まると、振り向いた研磨が急かす声でやっと足が動いた。


「…あのさ」
「ん、何?」
「さっき泰葉、おれのこと知らないって言ってたけど」
「…うん」
「おれ、自分のこと話すの好きじゃないし、だからえっと…別に、おれは不安じゃない」


目を泳がせながら独り言のように呟くと、わたしと目が合って逸らされる。指先はとうに心地よい暖かさに変わっていて、でもって。


「……なんでにやにやしてるの」
「してないし。…研磨、誕生日おめでとう」
「…ありがと」


笑顔をつくってみても、深呼吸しても消えなかった胸のつっかかりが、たどたどしく選ぶように発されたその言葉で簡単に消えてしまうのだから、つくづくわたしは単純だと思う。繋がれた手を握ってみると、返事をするように握り返されて、それだけでもう惚けてしまいそうなくらい幸せになれた。




Happy birthday dear Kemma Kozume!
2014.10.16


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