正座させられたわたしの前に立ちはだかる壁、もとい蛍。顔の位置が高すぎてどんな表情かはわからないけど、多分蔑んだような目をしているに違いない。


「これ、何ですか」


蛍の指差した先、テーブルの上にはいちごの乗った大きなホールケーキ。わたしが持参したものだ。


「いちごのケーキだよ、蛍好きでしょ」
「好きだったらこんな馬鹿みたいな量食べれると思うわけ」
「馬鹿みたいって…ほら、誕生日プレートもお店のお姉さんに書いてもらって」
「あのさぁ、子供じゃないんだから」
「…子供のくせに」


目を逸らしながらそう呟けば、さっきまで見えなかったはずの蛍の顔が目の前にきて。


「…へーえ?」
「ひっ…だ、だって本当のことでしょ、わたしの方が年上だし!」


ああ、威圧感。自分で言ったはいいけどこの子より年上の自覚が持てない。プレゼントだって喜ぶかと思って持ってきたのに期待はずれだったようだし、つくづく恋人でいる自信がなくなっていく。


「…蛍、何かほしい?って聞いても別にって言うから…わたし働いてるし、ちょっとくらい甘えてほしいなと思って…」


苦笑いしながら本音を漏らせば、蛍は黙ってしまった。また子供扱いだって怒られるかな。


「泰葉さん」
「な、なんでしょう」
「僕がほしいもの、泰葉さんでいいです」
「いいですってちょっと言い方…」
「駄目なんですか」
「駄目、というか…」


ケーキをつつきながら横目にわたしを見つめるその目は挑発的。本当は嬉しいだなんてそんな、喜んだりするのは恥ずかしい。でも冷静でいようとすればするほど、顔が熱くなるのがわかる。


「泰葉さんは僕のことが好きで好きでたまらないんですねぇ。ほしいものがわからないからケーキをホールで、って考えがもう幼…いえ、可愛らしいですよね」
「幼稚って言おうとしたでしょ」
「まさか。勘違いじゃないですか」
「…はあ、いいけど」


口ではどうやったって勝てるわけないもの。そもそもわたし、この子より優れてるところあるのかな。考えはじめたらちょっと切なくなってきた、やめよう。


「あの、今さらだけど本当にほしいものなかった?遠慮しなくていいんだよ」
「泰葉さん以外でなら別に。それに泰葉さんがくれるならなんでもいいですし」
「…そ、そっか…」


不意打ちはずるいと思う。さっきまで散々、馬鹿にしてきたくせにそんな、突然そんなこと言うなんて。冷めたはずの熱が再び戻ってきた。


「まぁでも絶対食べきれないんで、はいどうぞ」
「え、ちょっと多…今ダイエット中で」
「多少太ってても嫌いになんてなりませんから。あ、寧ろ男除けになるんじゃないですかね」
「わたしに必要ないからそんなの…」
「いい歳して一人じゃ食べれないんですか?仕方ないなぁ、食べさせてあげましょうか」
「わっ、だ、大丈夫食べる、食べるから!」




大きなケーキがもういらないって思えるくらいに減ったとき、蛍の少し控えめな笑みが見られて、わたしは一人思ってしまった。


「(蛍の誕生日なのに、わたしの方がプレゼントもらっちゃった気がするなぁ)」
「何にやけてるんですか、やらしい」
「蛍、誕生日おめでとう」
「……どうも」


たいしたものはあげられなかったけど、そっぽを向いた蛍が少しでもいい日だったって思えるような、そんな日になる手伝いができていたら、わたしは幸せ者だと思う。




Happy birthday dear Kei Tsukishima!
2014.09.27


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