「…え、引退しないことにしたの?」


放課後、待ち合わせは学校の近くの河原。わたしよりあとから来た大地の言葉をそのまま聞き返した。遠くの空を見上げながら頷く彼にそっか、と一言返すとおもむろに謝られた。


「何が?」
「泰葉はもう部活、引退したんだろ?
だから今まで以上に二人で会ったりする時間がなくなると思う」
「ああなるほど、そういうことね」
「…悪い」


大地はそう言って俯いたけど、その目に迷いや後悔なんて欠片も映ってなかった。


「わたしはさ、死ぬほど必死に部活やってたわけじゃないから」
「そんなこと…」
「いやでもね、大地見てたらこう、熱くなるってすごいな、かっこいいなーって、そう思ったよ。結局一回戦負けだったけど…でも、悔いが残らないようにやれたのは大地のおかげだと思う」


羨ましかった。がむしゃらになれるくらい好きなことがあって、努力してそれを続けるための力も手に入れて。そんな大地を見ててわたしだって、ってなったのは本当。


「だから応援するよ。もう一回行くんでしょ、東京に」


夢を託す、なんてそんなかっこいいことじゃないけど。ただ単に、夢が叶うその瞬間を、飛べない烏が飛ぶのを見てみたいから。


「…ああ、絶対。絶対に行く」


初めて見たときには初々しく、着られているという言葉が適していたその黒いジャージが、何時の間にか彼にとても馴染んでいることに気付いた。


「頑張れ、大地。きっとできるよ」
「なんか泰葉にそう言われると、本当にできそうな気になるよ」
「わたしを放置してまでやるんだから、やってもらわなきゃ困る」
「それもそうだな」


茶化したわたしの言葉にやっと笑った大地は、その大きな手でわたしを撫でてくれた。前よりも頼もしくなった大地を、どこか誇らしく、そして愛しく思った。





その烏はまだ空を飛べる
(これから、飛ぶんです。)










アニメハイキュー!!、お疲れさまでした。
烏野高校排球部に幸あれ。


- ナノ -