繋心さんは、わたしのことを不良と呼ぶ。確かに真面目か不真面目かと問われれば確実に後者に属している方だろう。勉強は嫌いだし学校も時々サボる。最初はその呼び方に反論したりしていたけど、最終的にセックスするときは名前呼んでくれるしいいか、ってところに落ち着いた。
「おい不良」
「はーい不良でーす」
「返事してんじゃねえ学校行け授業を受けろ」
「言葉攻めすかー、ちょっと管轄外なんでまた後日改めてもらっていいですか。勉強してくるんで」
「茶化すんじゃねえクソガキ」
「いででで耳ちぎれる」
繋心さんのお店で棒アイスを食べていると、店内を軽く掃除していた彼に説教され左耳を引っ張られた。暴力店主。やんなっちゃう。不良不良って言うわりに、自分だって金髪でロン毛で今さっきまで煙草スパスパ吸ってたくせに。労わるように耳をさすると、じっとわたしを見つめる繋心さんに気付いた。
「…お前、耳どうした」
「どうしたって、今しがた貴方に引っ張られたのでは」
「反対の方だ、右耳」
「あー。つか気付くの遅」
先日ピアスを二つ開けた右耳に髪をかけて見えるようにすると、彼は何故か眉を顰めた。別に喜んでくれるとは思わなかったけど、その反応はちょっと意外、というか心外。
「…学生風情が生意気な」
「うわ、出たよ」
「第一親からもらった体をなぁ」
「うわあジジくさ!オヤジくさ!だから早く結婚しろとか言われるんすよ」
「んだとこの!」
グーにした拳で頭をぐりぐりされ、対抗するべく彼の足を踏んづけた。暫く睨み合うと、互いに馬鹿らしくなり少し距離をとった。いい歳の大人と高校生が何をやってるんだか。
「…ねー、知ってます?片耳ピアスには意味があるんすよ」
「…へえ」
「確かねー、左耳だけすると守る人、右耳だけすると守られる人ってなるんですって。ちょっとよくないですか」
だから開けたんですけど、と続けると、繋心さんは無言でわたしの頭を撫でた。あー、気持ちいい。犬にでもなった気分だ。
「それに繋心さんなんか知らないけど二つ穴開けてるし、お揃い的な」
「的なってなんだ」
「あはは、かわいくないですかわたし」
お揃いがよかった、ってことは言うつもりなかったのに。こぼれた本音を隠すように茶化してみれば、ぐっと彼の方に頭を寄せられて、そのままおでこにキスが降ってきた。
「可愛いよ、お前は」
「……う、わ…」
あ、なんかすごく、これはやばいぞ。
心臓がうるさい。少女漫画のヒロインの気持ちがわかった気がする。繋心さんは漫画の中のヒーローみたいに特別かっこいいわけじゃないけど、それでもこの胸の高鳴りはやっぱり。
「く、口にしろください」
「ああ?」
「…口にキス、して」
彼の胸倉をぎゅっと掴めば、口いっぱいに煙草の苦い味が広がった。
(今度髪染めようかなと思うんすけど)
(学生のうちはやめとけ)
(社会人になったら余計無理じゃないすか)
(だから染めなくていいだろ)
(…繋心さんと同じ金髪がいいのに)
(俺が黒にする…方がいいか、最悪の場合)
(それは…ちょっと、見てみたいっすね)