今に始まったことじゃなく、昔からスポーツ、とくに球技は苦手だった。多分、団体戦の類が性に合わなかったんだと思う。だって、失敗して足引っ張るの嫌だし、だったら最初からやらない方がいいに決まってる。はじめからうまい人なんているわけないのはわかっているけど、もし自分より下手だった子が自分を追い抜いて上達してしまったら。一人だけ取り残されてしまったら。劣等感を感じずにはいられないけれど、それでうまくなれるほどセンスも熱量もないと自覚しているからわたしはやっぱりスポーツに向かない。そんなわたしとは裏腹に、暫く顔を合わせていない幼馴染は見事にバレーボール少年になったのだった。




「ただいー…あ?」


いつも通り帰宅すると、玄関に見慣れぬスニーカーがあった。男物なのは一目瞭然だったが、家族のものではないのも確かだった。


「(お客さん…?)」


もしそうならうるさくしない方がいいだろうなと思い静かに自分の部屋に向かおうとすると、ばったり出くわした大男。


「あ、帰ってたんだ。おかえり」
「…なんだ旭か。うん、ただいま」


一瞬誰だかわからなかったが、その声と顔は変わっていないわけだからすぐに旭だと気付いた。変わったことと言えば、変な髪型とヒゲと。


「また背伸びたんじゃないの」
「そうかなぁ。だったらいいんだけど」
「ちっ、邪魔だわぁ本当」


首が痛いと睨めば旭は屈んでこれなら平気?と笑顔を見せた。確かにこれで見上げなくて済んだけど、そういうことじゃないっつうの。嫌味が通じないのがつまらなくてヒゲを引っ張ると、結構痛いようで手を軽く叩かれた。


「(…手もデカい)」
「泰葉?」
「…ああ、うんごめん」


あー痛かったと顎を摩るその姿は、やっぱりちょっと知らない人みたいで変な感じがした。そんな中わたしたちの元に母がやってきた。


「あら泰葉帰ってたの?丁度よかった、旭くんもう帰るから見送ってきて。最近物騒だし」
「はあ?やだよ帰ってきたばっかだし」
「あとついでにおつかいも。お菓子買っていいから」
「いい歳して釣られないからそんなの」
「旭くん、今日はありがとうね。今度はご飯食べていってね」
「ああ是非。おばさんのご飯おいしいから」
「やだもう嬉しいわぁ」
「…人の話聞けよどいつもこいつも…」


お金と買い物のメモを渡され外に出されたわたしは、仕方なく近くまで旭を送ることにした。


「なんか悪いなぁ」
「ほんっとにね。何?物騒って。旭の顔が物騒じゃん」
「言葉が!鋭いから!」


普通逆だろと同意を求めればまぁなと答えるから、やっぱり危ないことなんてないじゃんとため息をついた。


「ていうかバレーは?最近どうなの」
「楽しいよ」
「それは何回も聞いたよ」
「ええ…うーん…怖そうな強い相手ばっかだよ」
「旭、自分のこと言ってる?」
「違うよ!」


茶化してみれば反応は相変わらずで笑ってしまう。同じ学校でも違うクラスだから接点がなくて、こうしてゆっくり話すのも久々だと気付く。…なんだか、遠い人に感じるな、なんてらしくないとはわかっているけど。


「泰葉は部活とかやらないの?」
「だるい」
「昔からそうだもんなぁ、変わってない」
「うん。旭も変わらずヘタレでバレー馬鹿みたいで安心した」
「なんかいろいろ余計だぞ…」


変わってないと思ったら変わってて、でもやっぱり昔と同じ。嫌だなぁ、大人になっていく感じ。どんどん離れていく感じ。


「旭はさぁ、昔からへなちょこだったけどさ」
「う、うん…?」
「わたしのヒーローだったんだなぁ、って思い出した」


変わっていないのは、バレーに対するその眼差し。熱くて熱くて、わたしなんかじゃ到底覗く勇気も持てない真剣な目。そんな旭がちょっとだけ羨ましくて、ちょっぴり誇らしくて、ほんの少しだけかっこよかった。テレビの向こうのそれとは全然違うけど、弱きを助け強きを挫くのだけがヒーローじゃないとわたしは思った。


「…え、何その顔。赤すぎでしょ。照れてんの」
「てっ照れてにゃい!!」
「にゃい」
「ああもうそうだよ照れてるよ恥ずかしいよ!泰葉の馬鹿!」
「それじゃあ旭は大馬鹿だな」


ヒーローはずっとヒーローでいてよね、なんて思っても絶対、大馬鹿には言ってやらない。





(でもそんなに面白いなら一回ちゃんと見てみよっかな)
(…今度試合、来る?)
(旭のかっちょいーとこ見れるわけ?)
(そ、それはどうかな…)
(はあ?活躍しないのに来いって言うの?馬鹿にしてる?)
(してないしてない!わかったよ、が、頑張るから…!)
(よーし、じゃあ約束ね)
(うん、約束)


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -