※閲覧注意




好きな人ができました。
でも、その人を好きになったとき、
彼には既に付き合ってる人がいました。


「佐和ちゃんはイイコだねー。俺、佐和ちゃんだーいすき」


そう冗談を言ってはにかむあなたを、
嫌えるほど"イイコ"にはなれなくて。
あのとき顔を背けていたら、バレー部のマネージャーなんてやらなければ、そもそもこの高校に来なければ。後悔しだしたらきりがなくて、何度夜が明けただろう。

そんなある日、嫌な話を聞いた。


「及川さん最近調子悪くね?」
「あー、なんか彼女とうまくいってないんだって」
「今まで振られても別れてもバレーに支障出たことなんてなかっただろ」
「そんくらい本気ってことじゃん?」


バレー部の男子たちが話していた場に偶然居合わせて、気付けばわたしは及川先輩に声をかけていた。

なんてことない世間話からはじまって、少しすると先輩は彼女さんのことを相談してくれるようになった。わたしは及川先輩を徹先輩と、先輩はわたしを泰葉ちゃんと呼んでくれるようになった。
少しだけ、距離が近づいたような気がして、嬉しくて、でもちょっと虚しくなった。そんなある日、部活終わりにデートに誘われた。彼女さんには悪い気がしたけど、断らなかった。



「はい、どうぞ。カフェオレだよね」
「あ、はい、ありがとうございます。
すみません、ご馳走になっちゃって」
「気にしなくていいよ。泰葉ちゃんみたいにかわいい子は男に奢らせておけばいいんだから」


飲み物を渡されたとき、徹先輩の細くて綺麗な指に一瞬触れた。すらすらと出てくる言葉はお世辞だとわかっていても、わたしの体を熱くさせるには十分すぎた。ふと、携帯の着信音が鳴り響いた。わたしのものじゃない。先輩は携帯を取り出して相手の名前をみると、鞄の底に押し入れてしまった。


「あの、携帯、出なくても…?」
「メールだから大丈夫。今は二人っきりの大事な時間だからね」


そう言っている間に、また先輩の携帯は小さく鳴った。何か大事な用なら、と言おうとしたとき、先輩はため息をついて口を開いた。


「…彼女がね、今日誕生日なんだ」
「え…じゃあ、メールは彼女さんからですか?会いに行った方がいいんじゃ…」
「いや、いいよ。…もういいんだ」


それでも着信音は止まらない。何度も何度も聞こえては、ついに徹先輩は電源を切ってしまった。


「彼女がいるのにって思うかもしれないけど、最近は彼女より泰葉ちゃんの方が気になるんだよね。もともと相性がいい相手とも言えなかったし。だから…」
「わたしを言い訳にしないでくださいよ」


徹先輩は驚いた顔をしていた。言葉を遮ったわたしでさえ、どうしてそんな言葉が出てきたのかわからなかった。勝手に言葉がこぼれた。でも、撤回する気も起きなかった。


「す、すみません生意気言って…でも、やっぱり違うと思います」
「違うって、何が?」
「…先輩は、わたしのこと好きじゃないですよ」
「なんでそんなこと、泰葉ちゃんにわかるの?」


切なそうに微笑んだ先輩。ああ、最後のチャンスだったのに、ふいにしてしまうわたしはやっぱり馬鹿なのかもしれない。それでもわたしは。


「好きな人のことくらいわかります。ずっと、みてましたから」


それでもわたしは、
先輩の幸せを願っていたい。

溢れ出しそうなものを堪えるようにおどけて笑えば、先輩は驚いて、それから
小さな声でごめんね、と言った。


「ほらほら、誕生日なんて最高の復縁イベントですよ!早く行ってあげてください!」
「…本当に、ごめん…」


徹先輩の背中を強引に押せば、先輩はわたしの手を引いて優しく抱き締めてくれた。細くて広くて少しかたい、男の人の体だった。

歩き出した先輩の背中を、みえなくなるまで見守って、わたしは深呼吸をした。涙は、出なかった。




それが夢の終わりを告げる言葉でも
肌に残ったこの温もりが、愛おしくて。

どうかあなたが、
幸せになりますように。


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