※作中登場する顔文字が文字化けするかもしれません。ご注意ください。






馬鹿みたいにすごくて、でっかいことがしたい。アニメになりそうな信じられないようなこと。

彼女が時々語っていた理想をふと思い出した。



少女のその妄想は相対するか?



「及川さんお誕生日おめでとうございますっ!」
「部活のあとご予定とかあるんですか?」
「私とご飯に行きましょうよー!」
「ちょっと、あんた図々しい!」

「あはは、みんなありがとう。ちなみに今日の予定は「及川」…ごめん、またね」


岩ちゃんの声に渋々女の子たちに手を振った。休日のしかも誕生日の今日くらい、もうちょっと自由にさせてほしいところなんだけどね。


「そういや今日はあの子いねぇのな」
「泰葉ちゃん?あの子はわざわざ俺のために休日に学校来るような子じゃないよ」


だから好きなんだけどね、と付け足すと微妙な顔をされて、ドンマイ、ざまぁみろと嬉しくないツンデレを頂戴した。

わかってる、彼女はあの子たちみたいにわざわざ俺の誕生日を祝いに来たりなんかしない。そもそも知ってるかどうかも怪しい。それでも少し期待してしまうのは若さ故の愚かさなのかな。彼女以外の子からの着信で埋まったメールフォルダを閉じて、練習に戻った。






時刻は23時を過ぎたところ。もうすぐ俺の誕生日が終わる。約束があると全ての誘いを断って家に帰ったけれど、そんなの嘘だ。というか、幻想だ。


「…ま、現実はこんなもんか」


本当は少し会いたかった。鳴らない携帯をベッドに投げ捨てたとき、待ち望んだ個別着信音が聞こえた。


【学校に来て (「 'ω')「ハヤクハヤク!】


調子外れなそのメールに顔がニヤけて、すぐに家をでた。




「…あれ、どこだろ」


学校の前まで来ても彼女の姿はなかった。
もしかして中に入れと?そんなことを考えていたら再び着信が鳴った。


【校庭に来なさい_(⌒(_'ω')_】


仕方なく、夜の学校へと足を進めた。




「…さて、ついたけど」


相変わらず彼女の姿はみえない。辺りは真っ暗で、星がよく見えた。すると、


「なにあれ…」


青白い光を発する粉のようなものが、校舎の方で降っているのがわかった。この真夏に雪が降ったようで暫く見惚れていると、電話がかかってきた。


『もしもーし、みた?』
「みたけど…あれ何?」
『ふふん。知りたかったら屋上に来なさい。あ、光ってるやつ吸わないように気をつけて』


返事をする前に切られ、屋上に急いだ。本当に何を考えてるのかわからない子だ。でも、俺は自分がこの状況を楽しんでいるとわかっていた。



「よ、こんばんは」
「こんばんは。いいものみせてくれてありがとう」


ぬるい風に吹かれて髪を揺らす後ろ姿にそう言えば、いたずらに成功した子供のように彼女は笑った。


「こっち来て。お楽しみはこれからなんだから」


手招きされて柵のぎりぎりまで近付くと、彼女は何かを空に放った。


「……う、わあ…」
「綺麗っしょ?」


さっきの雪のような何かが空を舞って、静かに夏の空に煌めいた。優美な景色に目を見開くと、彼女は得意そうに笑う。


「これ、暗いとこで光る砂なの。準備するの大変だったんよー」
「…俺にみせるために、用意してくれたの?」
「うん、だって今日…」


そこまで言ってはっとした彼女は、何故か急に慌て始めた。


「なに?どうしたの泰葉ちゃん」
「しまった、すっかり言い忘れてた!」
「なにを?」
「誕生日!でしょ?おめでとう、及川!」


暗い闇の中で、とびっきりの笑顔をみせた彼女が、愛しくてたまらなくて抱き締めた。


「わっ!あ、びっくりした?嬉しい?」
「…嬉しいよ、好きな子が俺のためにこんなことしてくれるなんて」
「及川わたしのこと好きなん?わたしも及川のこと好きだから一緒だねー」


あははと笑った彼女に呆然とする。今なんかすごいことをカミングアウトされた気がするんだけど、俺の聞き間違いかな。


「ちょっと待って、今なんて言った?」
「及川わたしのこと好きなんー?」
「そのあと」
「わたしも及川のこと好きだから一緒だねー?」


なんか変なこと言った?と俺に尋ねた彼女の気持ちが読めなくて、言葉に詰まっていると、それを察したのか泰葉ちゃんは俺の肩に手を伸ばして、唇を押し付けた。


「わたしのはこういう好きだけど、及川は
違うの?」
「…そんなんじゃ、足りないよ」


そう言って彼女に口付ければ、遠くの空で
星が幾千にも瞬いた。



(こんな最高な誕生日、初めてだよ)




「来年は顔面ケーキやろうかなー」
「泰葉ちゃんそれはやめようね!」






Happy birthday dear  Toru Oikawa!
2014.07.20