蝉の声も轟く。夏休みが始まった。

冷房をフルに起動させた涼しい俺の部屋で、泰葉と向かい合って宿題を消化中。ここ連日、部活部活で体力は減る一方。今日も午前は部活があったためか、なかなかはかどらない。目の前ですらすらと答えを埋めていく泰葉を見ていると、集中してと怒られてしまった。仕方なくペンをとると、今度は彼女が俺を見つめていた。


「…うざ」
「えっ」
「及川、睫毛長い。ふさふさだし。なんだよイケメンか」
「否定はしないかな」
「うわぁうざー」


うざー、とぼやきながら泰葉がペンをぽいっと放って背後にある俺のベッドに寄りかかる。彼女もお疲れモードのよう。


「あー…及川のにおいだ」
「ちょっと、恥ずかしいんだけど」
「辱めてやるー」


ベッドに顔をうずめた彼女に呆れながら立ち上がって泰葉に近付き、抱き締める。


「本物の方がよくない?」
「…おいかわぁ」
「ん」
「ちょっと、ねむい…」


俺の腕をきゅ、と掴んで眠気と格闘する泰葉がいた。つくづくこの子には敵わない。寝てもいいよ、と言うとありがとうと言って、俺にもたれかかってきた。
あ、このまま寝るのね。


「…無防備」


既に夢の中の泰葉の頬に触れた。今日は何もしないけど、次はわからないよ。
まだ夏は始まったばかりなんだから。




(先ずは、俺を名前で呼ばせるところから)


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テーマ「人外ファンタジー」
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