体育館の窓に叩きつけられた雨を見て、及川が呟いた。


「…台風って、テンションあがるよね」
「「いやあがらねえよ」」
「岩ちゃんも泰葉もわざわざ合わせないでよ!」
「グダグダしてる暇あったらさっさと練習しろ」
「今まさに長時間練習したあとの休憩中なのでは!?」


相変わらず二人はこんな感じ。それにしても、酷い雨。風も強くなってきているようだし、ちゃんと皆帰れるか心配だ。もしもっと強くなるようなら監督に相談して…。


「ぷっ、見て見て岩ちゃん!泰葉すごい顔!」
「なっ…この、顔面狙うぞこら!」
「泰葉のコントロール力じゃ無理無理!」


…悔しいけど、確かにわたしはノーコンだ。スポーツは好きだけど球技はまるで駄目。でも、人がせっかく気遣ってやってるのにクソ及川ときたら…!両手で掴んだボールにぎりぎりと爪を立てると、横から伸びてきた手がそれを奪った。岩泉が笑い転げる及川に狙いを定め、そのまま力強いサーブ。


「うがっ!!!」
「からかうのもそれくらいにしてやれ、及川」
「岩泉…ごめんちょっと惚れかけた」
「お前も馬鹿なこと言ってんじゃねえ。練習始めんぞ」
「そうだよ、岩ちゃんは俺の岩ちゃんなんだからね!泰葉には渡さないんだから!」
「もう一発いっとくか、及川」


男前岩泉に手を合わせて拝むと、軽く小突かれた。雨の強さをものともしない、熱の入った練習が再開された。



部活もそろそろ終わる頃、コーチに頼まれて職員室までおつかいに行った。体育館を抜けると、雨の強さは少し強まっていて。急ぎ足で職員室へ向かい、帰りもできるだけ濡れないようにと足を早めた。


「コーチ、頼まれたものを…あれ?」
「コーチなら…って、お前!!」


岩泉に話しかけられ振り向くと、何故か彼は焦ったようにキョロキョロし始めた。


「何?岩泉なんか変…」
「岩ちゃんどうしたのー?大声出しちゃって、って…泰葉!?」
「いやだから何」


岩泉の声を聞いてやってきた及川も、顔を赤くしながらあたふたしていて、眉を顰めるとそこに後輩の国見が偶然やってきた。


「佐和さん、下着透けてますよ」
「え?」


自分の服を見ると、白い体育着に下着の色と形がくっきり。


「……!?!」


さっき雨に濡れたからだ…今日暑くてキャミ着てなかったけど、透けるなんて思ってなかったし…!慌てて胸元を隠すと、バレー部員の目線を感じた。


「てめえら見てんじゃねえぞ!」
「俺、ジャージ持ってきてるから貸してあげるよ」
「岩泉、及川…あ、ありがとう…」


わたしを彼らから隠すように立ちはだかった岩泉に、普段なら茶化すであろう及川の裏表ない笑顔。今日はやけに二人が頼もしく見えて、何より有難かった。




「あれ、雨まだ止んでないの!?」


なんとか無事に練習も終わり、帰ろうとすると及川がそんなことを言って嘆いていた。


「台風だからね、明日まで雨止まないよ」
「え、マジか」
「まさか及川も岩泉も、傘持ってきてないわけじゃないよね?」


話を聞いていた岩泉もぼやいた。確かに朝は雨が降っていなかったけれど、雲行きは怪しかったしテレビでも散々台風の予報が流れていた。のに…。


「だって朝降ってなかったもん」
「持ってきてるわけねえ」
「…ああ、そうですか…」


及川に借りたジャージの長い袖をめくり、それじゃあと背を向けた。


「困ったなぁ」
「濡れて帰るか」
「えー、風邪引くよー」


背後から聞こえる二人の声に、わたしは振り返った。



「ちょっと岩ちゃん、狭いよー!」
「俺だって濡れてんだよ!」
「まぁまぁお二人さん、仲良く仲良く」


小さな傘に入りきらない長身二人に挟まれて、土砂降りの道をゆく。わたしはなんだかんだで、こういう日常を堪らなく恋しく感じるのだろう。





(にしてもさぁ、泰葉って結構派手なのつけてるんだね)
(ああ、デカかったしな…あ、)
(…あんたら、濡れて帰れば?馬鹿は風邪引かないもんね)


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