「もう夏休みも終わりだね」
「だな。今年はあんまり出かけなかったな」
「一が部活ばっかだったからでしょ」


はんぶんこにしたアイスを食べながら縁側に足を放り出した。つんと冷たいアイスに沈み始めた夕焼けが中々に風情を感じさせる。夏の暑さはまだまだ続きそうではあるけれど、夏休みの終わりという一区切りは学生のわたしたちにとってはそれなりに大切なわけで。


「…悪かった」
「え、なんで?というか何が」


そっぽを向いて独り言のように呟いた一は、大きく息を吐いて短い髪をがしがしと掻いた。


「なんか今年は…いや去年もその前もか。せっかく休みなのに全然会えなかったし」
「部活なら仕方ないっしょ」
「…なんでお前はそう、物分かりいいんだよ」
「わたしとバレーどっちが大事なのー、なんてキャラじゃないじゃん」


我ながら笑えるな、と一人笑うと、突然ドンと床を叩かれた。一のアイスは手の熱で溶けてしまったようで、ぎゅっと握られて中身がぽたりぽたりと零れていた。


「笑い事じゃねえだろ、何考えてんだよお前」
「そっちこそいきなり怒りだしてなんなの」
「それはお前が!…違うな、うん、悪い」


また深くため息をついて自己完結してしまうから、無愛想なその頬をつついた。


「…俺はバレーが好きだけど」
「うん」
「泰葉のこともちゃんと好きだから」
「知ってるよ」
「……だから、俺はもっとお前といたかった」


アイスを握り締めたまま、淋しそうに一は言った。しょうがない子だな、と俯いた彼を胸に抱き寄せた。


「馬鹿だなぁ、一は」
「…うるせえよ」
「…わたしも会いたかったよー、ずっと」


会いたかったに決まってる。決まっている、けど不安になることもある。一は周りの子の彼氏みたいにしょっちゅうデートしてはくれないし、彼氏っぽいことだって全然してくれないけど。


「でもね、わたしバレーが好きな一が好きだから、ちょっとくらい会えなくても平気」


何かにひたむきな人は美しい、って昔どこかで聞いたような気がする。本当にそう思う。バレーをしてる一はキラキラしてて、かっこよくて、わたしの自慢だから。


「…悪い」
「謝るくらいならやめちゃえ」
「やめねえよ!…あ」
「うん、それがいいと思う」


やられた、とでも言いたそうな顔をした一は、わたしを引き寄せてキスをした。前言撤回。


「…彼氏っぽいことできるじゃん」
「当たり前だろ、俺は泰葉の彼氏だ」


それもそうだ。すっかり溶けてしまったアイスはきっとおいしくなかっただろうけど、一が隣にいるからかすごくおいしく感じた。こういう気持ちをなんて言うのかな。今度及川にでも聞いてみようかな。一にも、同じこと感じてる?って聞いてみなくちゃ。






(一といるとなんかこう、全部嬉しいの)
(それは幸せっていうやつじゃないかなぁ)
(あ、なるほど。さすが及川)


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