「馬鹿」
「ごめん」
「バーカ」
「何回言うんだよ」
昼休み、廊下にて。
隣のクラスの彼氏、夜久がほどけたネクタイを持ってやってきたのは数分前のこと。結べない、と助けを求められたこと自体にはそれほど何も感じていない。
ただ、
「なんで自分で結べないのに三日連続でほどいちゃうわけ」
それが問題だ。
体育終わりで制服に着替えようとしたとき、結んだまま外していたネクタイがするりとほどけたのは三日前のこと。襟の下を通して結ぼうとしたとき、あるアイデアが浮かんだ。俺はほどけたままのネクタイを持って隣のクラスへ向かった。彼女は少し呆れていた。
「…ふふ」
「なに、気持ち悪い」
「いいや、佐和がいてくれてよかったなぁって」
俺の思惑なんて気付きもしない佐和がかわいくて笑っていたのだけれど、軽く躱せばネクタイをきつく締められた。
「く、くるしいっ…!」
「もうほどくな。ほどいてもわたしに
持ってくるな」
他をあたれ、そう言ってそっぽを向く
彼女の耳は赤かった。きっと俺は明日もわざとネクタイをほどいて、自分で出来るのに君を頼るだろう。
だって、なんだかこれってまるで、
(新婚さんみたいじゃん)